ルールと言い訳

満月が照らす、色とりどりの花畑。俺は毎日のようにそこへと向かっていた。
そこにはいつも、月光にきらきらと輝く金髪と、ルビーのような真紅の瞳を持つ二人の少女がいた。

「なんじ、すこやかなるときも、やめるときも、えーっと……どんなときでも、わたしのいもうとをあいせるとちかいますか?」

たどたどしい言葉遣いで、横にいる女の子が俺に尋ねてくる。

「はい、ちかいます」
「アイリスちゃんは、ちかえますか?」

俺と同じ質問を投げかけられた女の子は、どこか緊張したような顔で、俺の目をまっすぐ見つめながら答えた。

「はい、ちかいます」

それを横から見守る女の子は、その答えに笑みを浮かべていた。

「しょうがないから、ふたりをけっこんさせてあげます」


―――――――――――――――――――


「ん………」

窓から差し込む光によって、男の意識は覚醒へと導かれた。
瞼が開くと同時に飛び込んでくる光量に顔をしかめつつ、ベッドから身体を下ろす。
――なんだか、懐かしい夢を見ていた気がする。
欠伸を咬み殺しながら、洗面所へと向かう。顔を洗い、寝巻きを脱ぎ、仕事用の服へと袖を通す。

子供の頃のよくある話。当時は、それがどれだけ重要な事かなんて分からない。
言わば大人が行っている行為そのものに憧れているのであって、相手に恋愛感情すら必要ではない。
身近で、ごっこに付き合ってくれる異性であれば、誰でもいいのだ。
時は止まってはくれない。皆いつか大人になり、幼い頃の約束は、無知からの脱出と共に時効を迎える。

――何が、いけなかったんだろうな。

そんな事を考えながら、男は仕事場である屋敷の中庭へと向かった。




木の剪定は知識とセンス、技術のそれぞれが一定水準以上のレベルで求められる作業だ。
木はその背が高くなればなる程、根元と先端の間に遠近法が発生し、それを考慮に入れた剪定を行わなければならない。客人が訪れた場合にその木が目に留まる角度を割り出し、その全てからなるべく完璧に見えるように仕上げる必要がある。
万が一多く刈りすぎてしまった場合、枝葉は一日や二日で伸びるものではなく、その間主人に恥をかかせることになってしまう。かといって、必要以上に一つ一つに時間をかけてしまうと、今度は枝が成長する速度に剪定が追いつかなくなってくるのが意地の悪いところである。
もっとも、この館の専属庭師である彼の頭にはその全ての情報が知識として詰め込まれており、余った時間を更なる庭の完成度に注ぎ込む時間も十分過ぎる程にあるのだが。

「ん〜、こんなもんかな……」
「おーい、ヘルムーっ♪」

一区画を刈り終え、地面に散らかった葉っぱや枝の掃除に取り掛かっていた男――ヘルムが自分の名を呼ぶ方に顔を上げると、屋敷の中から容姿のよく似た女性が二人、こちらへと歩いてくるところだった。

「どうかなさいましたか、お嬢様方?」
「……他に人もいないのに、その呼び方はやめてよ。何かヘルムに畏まられるとむずむずするから。」
「あはは、すみませんリリィさん」
「分かればよろしい。……あ、もうこんなに刈り終わったの?うんうん、流石は我がブラッドベリー家の専属庭師ね」

怪しい魅力を湛えた真紅の切れ目に絹のような金髪、そしてすらりと伸びた長身。どこか近寄りがたい雰囲気の見た目とは裏腹に、人懐っこい笑顔で笑う彼女の名前はリリィ・ブラッドベリー。この館の主であり、ダンピールという半人半魔の特殊なヴァンパイアの突然変異種である。

「……姉上。主ともあろう者が、使用人にそのような振舞いを許すなど……関心できません」

そして、こちらの見た目通り近づき難い彼女がアイリス・ブラッドベリー。館のもう一人の主であり、リリィさんの妹であり、姉とは違い純粋なヴァンパイアだ。

「えー、いいじゃない、小さい頃は3人でよく遊んだでしょ?」
「あの頃とは立場というものが違います。それに私たちは吸血鬼という高貴な血を引いた――」
「んー、でも私、半分人間だし……」
「……はぁ。では、勝手になさって下さい」

ため息と共にそう言い捨てると、アイリスは踵を返し一人で屋敷の中へと帰っていってしまった。
一人残ったリリィが、ヘルムに申し訳なさそうな苦笑を見せる。

「……ごめんねヘルム。アイリスちゃん、ベッドに入る前で機嫌が悪かったみたい」

ヴァンパイアは怪力に加え膨大な魔力も併せ持つ、限りなく最強に近い種類の魔物であるが、代わりにやたらと弱点が多い。太陽の光はその中でも最も有名なものだろう。
太陽の下にいる限り、ヴァンパイアの魔物としての力は殆ど押さえ込まれ、人間の少女と変わらない程に非力な存在となってしまう。そのためヴァンパイアは、基本的に夜行性の魔物なのだ。
ちなみにダンピールは性質的に人間に近いらしく、特
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