ちゃぷん。
「……ふぅ」
火と水の精霊の加護を受けた湯に体を預け、一息つく。……様々な疲れが、湯の中に溶けていくようだ。
視線を巡らせれば、魔界に来てからというものほとんど目にしていなかった、青々とした葉をつけた木。
慣れない景色の中での生活で少々まいっていたらしい。その自覚は無かったが……これほどまでに緑の葉が恋しく思えるとは。
そう、自分がこれほどまでに木を凝視しているのは、久しぶりに見る光景に対する感動をじっくりと噛み締めているからであり。
「行綱よ、何故そんなに一生懸命視線を逸らすのじゃ?」
決して一緒に入っている姫様達を視界に入れないように必死になっている訳ではない――!!
「それでは改めて入浴の際の注意事項を伝えさせて頂きますね。当旅館の温泉は男女混浴となっておりますが、浴場での性行為は禁止とさせて頂きます」
行綱からしてみれば、それは注意するまでもないような当たり前の事。しかし、意外にも浴場で行為を初めてしまい、出禁になる者は多いと聞いた事がある。
全く、一体どういう神経をしていればそのように公共の施設で破廉恥な行為を――
「……なん、だと……?」
「なぜ愕然としているのだ、ほむら……?」
「え、だって男と一緒に温泉に入ってるのにそこでセックス出来ないんだろ!?何の為の混浴なんだよ!?」
「……お前は一体、温泉を何だと思っているのだ……?」
呆れながらもほむらにそう告げると、彼女は急に俯き、ぶつぶつと何かを呟き始めた。
「……え?え?温泉って気持ちよくセックスする為の場所じゃねぇの……?」
……よく聞こえないが、何か凄い事を言ってる気がする。
「当旅館は、ジパング本来の温泉を楽しんで頂きたく思っていますので。ご入浴の際は、湯浴みタオルを着用して身体をお隠しされるようお願い委致します。愛をお確かめ合いになる際は、個室か家族風呂をご利用になってくださいね♪」
「行綱よ、これなら妾達が一緒に入っても問題ないじゃろ?」
アゼレアがふふん、と胸を張って行綱の方を見る。
「……はっ」
今回の温泉旅行にこの旅館を選んだのは姫様のはずだ。ならば彼女は当然この事を知っていたのだろう。
混浴だと聞いた時は一体何事かと思ったが……おそらくは自分の反応をからかうために、様子を見ていたのだろう。
だが、確かにこれなら問題ない――
――訳がなかった。
「あれー、お姉さんの太ももとか見ておかなくていいのかなー?」
「うりうり、こっち向けよ行綱ー」
「二人共、行綱さんが困ってるじゃないですか……」
唯でさえそれぞれが女性として極上の美貌と体型を持つ面々。その身体のラインが、湯で張り付いたタオルにより更に強調されてしまっていのだ。あまりじっくりと見ていい様なものではない。
しかも、何故かやたらと視界に入ろうとしてくる。
「ひょっとして、じゃが……妾の身体が、気持ち悪かったりするかの……?」
「いえ、決してそういう訳では」
逆に、そうでないからこそ目のやり場に困るのであって。
「ねーねー、ミリアの体もだいじょうぶ?」
「……あぁ、勿論」
「えへへ、わーい♪」
あと正直ミリアは別にタオルを巻かなくても大丈夫だと思う。まだ隠すような身体をしていないし。
「ならば何故目を逸らすのじゃ?肌の面積は普段より少ないぐらいであろう?」
「……それは、そうなのですが」
アゼレアからすれば、タオルを巻いて身体を隠している時点で行綱への配慮は完璧だと思ってしまっている。
返答に詰まった行綱は、必死に場を誤魔化そうと周囲を見回し……
「……じーっ。」
皆から少し離れた所で、微動だにせず自分を凝視しているヴィントと目があった。
薄紫色の髪をアップでまとめ、青白い肌を桜色に上気させた彼女は、肩まで湯船に浸かったまま。すーっとこちらに近づいてくる。
「……じーーーっ。」
そしてまた至近距離からこちらを見つめてくる。
「……その、何か」
と、不意にちゃぷ、という音と共にその手が湯の中から現われたかと思うと――その手が、行綱の体に触れた。
湯船で温められ、生きている者と同等の熱を持った、絹のような肌触り。それを突然に感じた行綱の体がびくっと震える。
「っ……!?」
「……動かないで。大丈夫、変な事はしないから。」
そしてそのまま、ぺたぺたと行綱の身体を触り始める。
一度は身構えた行綱だったが、まるで医者が触診をするかのようなその手つきに、妙な心地よさを覚えてしまう。
「……思った通り。」
ぐっと押せば柔らかく沈みこむのに、見た目よりも遥かに大きい質量が圧縮されている事が分かってしまう筋肉。そしてその奥にある骨は、彼の外見から想像していたものより遥かに骨太。
「……凄い身体。速筋と遅筋のバランス。高
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