「千里の道も一歩から……俺はもっと強くなれる。」
ゴツゴツとした岩だらけの大地を、一人の青年が素足で歩いていた。
彼の名前はプラム・カラージェイ
カラージェイ家という代々冒険者の家系に生まれた男だ。たくさんの兄弟がいるなかで、プラムは十六男だ。ちなみに歳は20。
「心頭を滅却すれば火もまた涼し…火の熱さにはもう慣れたな…」
プラムは昔から自分を限界まで追い込むというスタイルで修行をする冒険者だった。
自身の体に火をつけたり、極寒の雪の大地を裸で過ごしたり、雷に打たれてみたり……
このような過酷な修行を長きに渡り続けた事で、プラムの忍耐強さは極限にまで鍛え上げられていた。
今のプラムなら一ヶ月間飲まず食わずでも我慢する事が出来るだろう。
「もっともっと俺は強くなれる!だからもっと、自分を追い込まなければ…!」
町から離れた場所にある大きな洞窟。
入り口は小さいが底は深く、中は迷路のように入り組んでいる。
そんな洞窟へと、プラムはやってきていた。
この洞窟を次の修行の場所にするのだ。
「よし、ではこいつを装備するとするか…」
プラムは道具袋の中から町で買ってきた黒い色をしたハチマキを取り出した。
それをプラムは自身の目元へと巻く。
「うむ。何も見えない。」
ハチマキを巻いた事でプラムの視界は完全に塞がれた。
方向感覚は無くなり、ちょっと歩いただけでよろけてしまい洞窟の壁に頭をぶつけてしまう。
「むっ!視界を閉じたままの移動は…流石に難しいな…」
今回プラムがする修行は視界を封じて気配だけで周りを探る修行だ。
目隠しをしたまま複雑な洞窟の中を無傷で突破するのだ。
プラムは目隠しのハチマキをきつくしばり、洞窟の中へと入っていった……
…………
「ふむ、流石は俺。もうコツを掴んできた。」
プラムはものの数分で周りの気配を察知する能力を開花させ始めていた。
視界が閉ざされていても空気の動きや僅かな物音、そして魔力の流れを掴む事によって洞窟がどのような形になっているかを把握する事が出来るようになったのだ。
流石にまだ完璧にとまではいかないがもう壁に頭をぶつけるなんてヘマはしない。
「集中…集中…」
プラムはそのままどんどん洞窟の奥へと進んでいく……
―――――――――――
プラムの入ったこの洞窟。
実は遠く離れた場所にあるとある町でもわりと有名な洞窟であったりする。
有名といっても良い意味でではない。
この洞窟、実は恐ろしい魔物が住む事で有名な場所なのだ。
洞窟に住む魔物の名前はバジリスク。
強力な魔眼を持つ魔物だ。彼女の瞳に睨まれるだけでその対象は猛毒に犯される事になってしまうのだ。
しかし毒といっても別に死ぬような代物ではない。
旧魔王時代では確かにバジリスクの毒は致死性のものであったが、
魔物“娘”となった今のバジリスクの毒は人の命を奪う事は絶対にないのである。
…それでもほとんどの人間の間ではバジリスクの毒はいまだに致死性の超猛毒だという認識だったりする。
そのせいでバジリスクは現在でも恐ろしい魔物として世間で噂されているのであった。
…まあしかし、これほどまでに世間から恐れられているバジリスクではあるが、実はバジリスクは人間を襲う事に対してほとんど興味を持たない魔物だったりする。一人でいるのが好きなのだ。
見た目は腕から羽毛の生えた鳥の爪を持つ下半身がヘビの美女。
バジリスクは自分が洞窟で静かに暮らせるようにするために、洞窟の入り口のすぐの所に『この先、バジリスクの巣穴。危険入るな。』という看板を立てていた。
この看板の効果は絶大で、洞窟にバジリスクがいるという噂はすぐに広まった。
これにより町の人間はバジリスクを恐れて洞窟に近づかなくなり、バジリスクは一人静かに暮らせるようになったという訳だ。
「ひと…つ……ふたつ…」
今日もバジリスクは洞窟の中に落ちている小石の数を数えたりして一人静かに洞窟の奥で暮らしているのであった。
「ここが最深部か……」
「…へ!?」
「んっ?誰かいるのか?」
「に…人間!?何で人間がここに…?」
看板が立てられてから数年間、誰も足を踏み入れなかったバジリスクの巣穴。
やって来たのは目隠しをしていた為、看板の存在に気付く事が出来なかったプラムであった。
突然の訪問者にバジリスクはもちろん驚いた。
…そして驚いたのは洞窟の奥に魔物なんかいるとは思っていなかったプラムもである。
「こ、この魔力の気配…!貴様魔物か!」
魔力の流れをすっかり掴めるようになったプラムは目隠しをしながらもバジリスクの気配が魔物の物である事に気が付いた。
「そ、そんな…人間がこの場所に来るなんて…!と、とりあえず私今ちゃんと仮面してるよね…よし、
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