町から大きく離れた山の中、ぽつんと廃墟あった。壁は崩れ、そこは苔が生えツルが巻き付きここ最近人が来た様子はみじんも無い。
俺は一人そこに立っていた。
昔から廃墟という物が好きだった。まるで別の世界のような、非日常的な雰囲気がたまらなかったのだ。子供の頃は秘密基地にして友人とよく遊んだものだ。
大人になって流石に友人と遊んだりはしないが、暇なときに通りがかった廃墟にふらっと立ち寄ってはぼぅと考え事をすることはある。
だが、今日はどこかに行くついでにたまたま通りがかった廃墟に来たわけではない。ここが目的地だ。そして今日ここで俺の廃墟巡りは終わりになるのだろう。
――俺はここで人生ごと終わることにしたのだから。
俺は何故死のうとしているのか、廃墟の中を進みながら考えていた。
一番の理由としては、少しでも幸せな間にこの人生を終わらせたくなったからだ。
毎日毎週毎月繰り返し繰り返し、休みがあったとしても疲れていて本当に休んで一日は終わる。
仕事で怒られ、へとへとになって終わったからと言って、なにかすることがあるわけではない。結局次の日も仕事に行く準備……もとい怒られる準備をするしかない。
最初は怒られたからといってただヘコんでいたわけでもなかった。『次は頑張ろう』そう思っていた。
だがずっと怒られ続けると流石に堪えた。今考えてみれば生涯で誉められた事なんて無かったかもしれない。
両親にだってあれをしろこれをやれと昔言われたが、それが出来ても褒めて貰えるわけではなく、逆に出来なかったら叱られるだけだった。
昔上司に怒られたとき「君は叱ったほうが、伸びるタイプだ」と言われたが、そんなのタイプは存在するのだろうか。
誉められたくて頑張っても叱られる。最初は俺のようにやる気になるかもしれない。だが、最後には折れてしまうのは目に見えている。器用な人間ならうまく受け流せるのだろうが、普通の人間は誉めた方が伸びる。俺はそう思っている。
だが現状楽しいことはないわけではない。古くからの友人との飲みや雑談は少なくとも俺は楽しかった。仕事も怒られたこともその時は話の種にはなる。
ただ、年々友人と集まる回数は減り、日に日に仕事の疲れもたまっている。
このままでは長期休みだろう友人にすら会う余裕も無くなってしまいそうだった。
ならば――これ以上苦しくなる前に、まだ少しでも楽しいことがある内に終わらせてしまおうと思ったのだ。
そう改めて考えをまとめているとに奥へとついた。
ここは前にも来たとき、今居る奥深くの雰囲気が本当に好きだった。
奥深くと言っても、もう建物は崩れているので空が見えている。そしてそこに葉やツタが張り巡らされ、木漏れ日が中を照らしている。なぜだかこの回りには鳥どころか虫もほぼ居ないらしく、葉の揺れる音だけがこの空間に響く。
――あぁここは落ち着くな。
そう感じながら俺は準備をする。持ってきた鞄を開け、取り出したロープを輪になるように縛り、その逆側を高い位置に引っ掛ける。
あとはその下に小さな椅子を置いて簡易的だが準備は終わり。
あとは上がって椅子を蹴るだけで俺は終わりを迎える。
そして最後にここで一息付く俺はそう決めていた。ロープの下の椅子に座って鞄から缶ビールを出す。プシュッという音が静かな空間にはよく響く。
いつも飲んでいる、しかももう冷たくもない安い酒だが最後と言われると名残惜しい。なんとも不思議なものだ。
死のうとしてるのに悠長だなと我ながら思いつつ、ぬるくなったビールをちびちびと飲んでいた。
「……何をしているの?」
突然後ろから声がした。女性の声だった。
俺は驚き後ろを振り向くが誰の姿も見えない。
「……誰だ?」
声のした方へ向き話す。
「質問に質問で答えないで。……まぁ聞かなくてもやろうとしてることは察しがつくけど」
声のするが、姿が全く見えない。崩れた瓦礫にでも隠れているのだろうか。
声の主は続ける。
「なにか溜まっているんでしょう……話を聞くわ」
どうやら俺が死のうとしてるのをするのを読み取ったらしい。まぁこのロープさえ見れば誰でもわかるだろうが……
「……ほっといてくれよ」
そう答え俺はビールを一口飲む。
だが相手は引き下がろうとはしない。
「死のうとしてる人が目の前に居てほうっておけるかしら」
目の前にって姿を見せてないじゃないか、喉まで出かかったが、こんなことならば無視にしたほうが早く諦めてくれる。そう考え答えるのを止めた。
「…………」
「無視を決め込むのね、なら別にどうぞ。あなたが言うまでここを離れない。無視できなくなるまでここに居ることにするわ」
溜め息交じりでこちらへ話しかけてくる。どうやら
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