今日も仕事を終え、俺は帰りの電車に揺られていた。一月前までは残業とは無縁だったというのに急に仕事が増えた。
もう誰も乗っていないガラガラの電車を降り、帰り道の途中にある公園を横切るために入る。
この公園は比較的大きい公園で、朝から夕方まで子供達が居たり、犬の散歩をしている人たちが居たりする。……がもう流石にこんな時間には誰も人はいない。
「はぁ、このペースで仕事が続いたら潰れるのも時間の問題だよな」
俺は独り言をつぶやく。
「アイツらは飲み会か、元気だなぁ」
同僚はほとんどが飲み会に行った。俺は断ったのだが、はっきり言ってこの時間から飲む方がおかしいとしか思えない、明日も平日だというのに。
「まず、どこにそんなお金があるんだよ」
段々と声が大きくなってくる。
「あー今日も夕食食べて風呂上がったらもう寝る時間だ」
会社の人は飲み会などに出席しているからか彼女持ち、もしくは結婚している人が大半だ。
何故真面目に働いた方が損している気にならなければいけないのだろうか。
「あーもう」
俺は足下にある石を片手に握りしめ、
「やってられるか!」
全力で投げた。
投げた石は放物線を描き少し遠くの草むらに入った……瞬間。
「ッワウ!」
……何かの鳴き声がした。
(やば、野良犬に当たってしまったか)
「ガルルル……」
草むらの奥からうなり声が聞こえる。逃げた方が良さそうだ。
後ろを向きゆっくりと歩き出した。
「――オイ、待て」
後ろから女性の低い声がした、振り向くと鳴き声がした草むらに人影が見える。
(飼い主か? 野良犬じゃなくて、飼い犬だったのか?)
「この石を投げたのはオマエだな?」
草むらから続けて声がした。
普段なら謝りに行くところだが、今日はもうそんな気力もなく、早く帰りたかった。悪い気はしたが、嘘をつくことにした。
「ち、違う、ここにいた子供が投げたんだ、その子は驚いてもう逃げてしまったよ」
――言い終えた瞬間顔の横を高速で何かが通り過ぎ、後ろで鈍い音が鳴る。見てみると俺が投げた石が木にめり込んでいる。
「ひっ……」
「もう一度聞くぞ、この石を投げたのは オ マ エ だな?」
人影が段々近づいてくる。
「は、はい、ごめんなさい」
どうやらとんでもない人を、怒らせてしまったかもしれない。
「痛かったんぞ、どうしてくれるんだ」
「ごめんなさい、け、怪我したのなら、なんでもします……か……ら……え、」
近づいてきて姿が見えた。
全身真っ黒でところどころ毛に覆われている。頭には犬のような耳が生えており、手足も犬や狼のように爪がついている。そしてこちらを見ている瞳も真っ赤に燃えていて、立ち方は人間らしいが、全体を見て人間とは思えなかった。
「……なんでもしてくれるんだな?」
「え、あ、」
パニックに陥り頭が回らない。
「なら……オマエのこと食べさせて貰うぞ」
彼女は白いギザギザした歯を見せながら言う。
その姿を見て、腰が抜け座り込んでしまった。
「ひぃ! 食べないで!」
普通の人間に食べるぞと言われても、恐いことはないだろう。だが彼女はどうだ、あの鋭い歯で食い千切られてしまうところが、容易に想像できてしまう。
「急におびえだしてどうした?……まぁ良い食べさせて貰うぞ」
そう言ってワイシャツのボタンを外し出す。
「や、やめて」
「やめない」
「ご、ごめんなさい、許して」
「すぐ謝るならまだしも、逃げて嘘をついたんだ、許さない」
――彼女が目を合わせてきて顔を近づけた瞬間、恐怖からか意識が遠のいた。
――――目が覚めると見知らぬ天井が見えた。スーツだったはずだがスウェットに着替えているようだ。状況がよく掴めない。
「お、起きたか?」
自分の胸の当たりから声がする。見てみると、気絶させてきた本人が胸に顔を擦りつけていた。
「ひっ……」
「良い匂いだなオマエ……くんくん……我慢できないぞ」
彼女が服をめくあげる。
「やめっ……こ、ここは?」
「ん? アタシの部屋だ」
どうやら確実に食べるために部屋に連れ込んだらしい。そう考えると震えが止まらない。
「た、助けて!」
「んー? アタシ以外にここには誰もいないぞ?」
そこそこな大声で助けを呼んだはずだが、周りで物音さえしない。周りにはだれもいないのだろう。
「俺なんか美味しくない、た、食べないでくれ」
彼女を説得しなければ、食べられてしまう。どうにかしなければ。
「やだ、こんな良い匂いのヤツ美味しくないわけないだろう?」
……どうやら気に入られてしまったみたいだ。どうすればいい。
「じ、持病があるんだ、今俺を食べたらき、君も病気になるぞ!」
もち
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