後編

フローラが僕に二度目の魅了魔法をかけてから約二か月間が過ぎた。だがこの二か月は僕と彼女にとってただの二か月ではなかった。言葉で言い表すとするならば、まさに「激動」だろう。彼女は僕が言った事を律儀に守り様々な方法を用いて僕に魔法をかけてきた。しかしそれらは僕の想像を遥か斜め上を行っていたのだった。

彼女に呼び出され呼び出された先で急に彼女が魅了魔法と言う名の攻撃魔法を僕に向けて放ったり、こっちの方があなたに効果的かもしれないと言われ、彼女はあられもない水着姿になり、そのまま僕に魅了魔法をかけたり、放課後誰もいない教室で睡眠魔法をかけられ、意識がうつろな状態で魔法をかけられたり、衰弱魔法をかけられ、死ぬか生きるか寸前のところで魅了魔法をかけられたり、密着した状態で魔法をかけられたり、夜中いきなり僕の元へ現れて、添い寝ついでに魅了の魔法をかけられたり、海、山、川、などの様々な場所で魅了魔法をかけられたり、高い所から落下しながら僕に魅了魔法をかけてきたり、など…。様々な滅多にない経験を彼女は僕に体験させてくれた。しかし、彼女がどのような手段を用いても、どのようなシチュエーションを用意してくれても僕が決して彼女の魅了の魔法にかかることは無かった。

僕はそんな自分にいら立ちを感じていた。どうして僕は彼女の魅了魔法にかからないのだ、彼女が僕の為にこれほどまでに頑張っているのに、僕は僕の為に頑張っている彼女に何もしてあげる事が出来ない。そんな自分を僕は恥じた。だから僕は今、自分の部屋で椅子に座り頭を抱えて必死で考えている。どうすれば彼女の魅了魔法にかかる事ができるのかと。しかしいくら唸ってもこればかりはどうしても思いつかない。そこら辺の劇場では入りきらないであろう数の本がある自宅の書斎でありとあらゆる本を読み漁ったが、得るものもなく終わり、最近話題の「インターネット」を使って解決策を考えてみたが、電源を入れる、マウスを操作する、キーボードで文字を打ち込むなど…。慣れないパソコンを何十分もかけて操作してやっと僕がたどり着いたのは日ごろの生活に悩みを抱えた人たちがアクセスするようなカウンセリングセンターのホームページであった。
魅了魔法にかからないことは精神的に危険な状態であるらしいとそのページには書かれてあったが、僕の精神はいたって健康そのものである。今話題のうつ病というわけでもない。ならどうして僕は彼女の魔法にかからないのだろうか?考えに考えても答えは出ない。僕が悶々としていると不意に僕の部屋の扉がコンコンと叩かれた。


「誰だ?」

もう夜の9時だというのに一体誰だろうか、メイドならこの時間には訪ねてこない、考えられるのは父上か母上か、そう考えながら僕はノックをした人物を想像する。

「あなたのお母さんでーす。ライール君にちょっとお話があるんだけどいいかな?」
「母上でしたか、どうぞ、お入り下さい。鍵は開いています。」
「はぁい。失礼しまーす。」

僕の部屋のドアを叩いたのは僕の母親であった。僕の母親特有のゆったりとした言葉と共に母親は扉を開けて僕の部屋へ入ってきた、しかし僕の母には人間にあってはならないものがついている。自慢の金色のしなやかな髪から堂々と存在を主張している山羊のような巻かれた角に、光をわずかに反射し妖しく光る漆黒の翼、先端がハートマークの形をしている細長い尻尾である。僕の母親は魔物で種族はサキュバスである。しかし産まれながらにして魔物だったわけではなく、ここ最近理由は不明だが自ら進んで魔物になったそうだ。魔物になって帰ってきたときは驚愕したものだが今となっては慣れたものである。

母上は部屋にあった椅子を僕の隣まで持っていき、腰を下ろした。母上は僕の顔をしばらく見た後、急に母親らしからぬ神妙な顔つきになり、口を開いた。

「ライール君、あなた最近何か悩んでる事があるでしょう?」

さっきまで僕の様子を見ていたのかと言いたくなるような母上の言葉に僕は自分の心拍数が急激に上がるのを感じた。もうすぐ大人になるというのに両親にこんな相談をして迷惑をかけるのも少し気が引ける。僕は母に心配をかけるまいと慌てて口を開いた。

「そ、そんな事は…。」

僕が言葉を言おうとした瞬間に母上は僕の傍に詰め寄ってきた。

「ごまかさないの、あなたがウソついてる時っていつも顔に出るのよ?子供の時からずっとそう。私、分かるのよ?だから、話して?私はあなたの悩みを解決したいの。」

そう言って母上は神妙な顔からいつもの優しい笑みを浮かべる。
母上はいつも僕の本心をすぐにつかみ取ってくる。そして僕が見栄を張ってウソをつく前に本心を話すように諭されてしまうのだ。
こうなってしまってはもう僕に勝ち目はない。素直に白状してしまうしかないのだ。

「うぅ…
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