ふと気が付けば俺は豪勢なステンドグラスの前に立っていた。一人で立っていたわけでは無く隣には女性がいた。純白のウエディングドレスに身を包み幸せそうな笑顔を浮かべている。
周りを見渡すと沢山の人がいる。どうやら俺と俺の隣にいる女性を祝福してくれているらしい。いまいち状況が呑み込めない俺にその女性は心配そうに俺の顔を覗き込んだ。
「達郎さん、どうしたの?まだ、落ち着かない?」
「えっと…。あぁ…。」
「もぅ…せっかく私たちの結婚式なんだよ…新郎がしっかりしてないでどうするの?」
女性は頬を少し膨らませて周りに聞こえないように囁いた。
結婚式…。ああ、そうだ。俺は彼女と結婚するんだった。それで今俺たちは結婚式場の中にいてこれから彼女と婚姻を結ぶところだったんだ。思い出した。
「ごめん、俺がしっかりしなきゃな。」
「その意気だよ。」
彼女はそう言った直後、俺の手を握ってきた。そして俺の方へ向き、少しはにかんだ後、口を開き
「幸せになろうね」と言った。
彼女がそう言った瞬間に周りの風景が歪み、自分の頭に頭痛が走った。頭痛に耐えられなくなり反射的に目を閉じる。
頭痛が収まり、目を開けるとそこは薄暗い玄関であった。そしてそこはかつて自分が住んでいた家の玄関だった。妙な胸騒ぎがする中、俺は自分の身体が自分の意思に反して勝手に動いている事に気付いた。靴を脱ぎ、床に上がり、一歩一歩目の前の扉へ近づいていく。そして扉へ近づくにつれて激しい寒気と吐き気に襲われた。今すぐにでも扉から離れここから出たい。そう思う事はできるが、身体は言う事を聞いてくれず一歩、また一歩と扉へ近づいていく。
そして扉にたどり着きドアノブに手をかけ、俺は扉を開いた。
扉の先には一人の男性と一人の女性がいた。男女両方とも裸であり激しく交わっていた。男性の方に見覚えは無かったが、女性は見覚えがあった。
私の妻であった。
二人ともどうやら事に夢中らしく、俺が扉を開けた事に気付いていなかった。
俺じゃない別の男の一物を恍惚とした表情で受け入れ、今まで聞いたこともないような乱れた声を発している妻の姿を見て、俺は思わず嘔吐し、床に吐瀉物をぶちまけたように思ったが実際に体は嘔吐もしておらず床には吐瀉物もなかった。俺の体は二人の情事をただ単に傍観しているだけであった。
傍観し続けていると、妻との行為にふけっていた男が顔をこちらに向けていた。到底人間では考えられないような体制で。体と首が全く正反対の方向を向いている。男は顔を醜くゆがませて潰れたヒキガエルのような声で俺に向かって言った。
「かわいそうになぁ、お前、今からお前は独りぼっちだ。だってお前の女、俺が取っちゃったんだから!」
ゲラゲラと聞くに堪えがたい声で男は狂ったように笑い続けこちらを見ながら妻に腰を打ち付けていた。今すぐ男の顔を顔の形が無くなるまで叩き潰して妻を助けたかったが、相変わらず俺の身体は動かないままだった。助けるべき妻も恍惚とした表情で男の交わりを受けているだけであった。
絶望感に打ちひしがれた俺は立つ気力を無くしその場に座り込んでしまった。
「かわいそうに。」
「かわいそうに。」
「かわいそうに。」
周りから聞こえる憐みの声。ふと自分がいる周辺を見渡すと床や壁や天井に人の顔がいくつも浮かび上がっていた。誰のかもわからぬ無数の顔が憐みの表情を浮かべ、俺を見ている。恐怖を感じ、無数の顔に背を向けって玄関から外に出ようと振り返ると目の前に、カエデがいた。
「カエデ!」
思わず俺は彼女に助けを求め、彼女に抱き着いた。彼女は俺を優しく受け止めてくれた。だがいつも暖かいはずの彼女の身体がやけに冷たかった。ふとした違和感を覚え彼女の顔を見ると―
「かわいそうに。」
彼女は俺の顔を冷たい顔で見つめ、言い放った。
彼女にその言葉を言われ、急に自分の身体に力が入らなくなり、その場に倒れこんでしまった。俺はこのまま一人。そう考えた瞬間に自分の身体が床に沈んでいくのを感じた。全身から冷や汗が吹き出し、今すぐ抜け出さなければマズイと本能が警鐘を鳴らすが、身体は依然としてびくともしない。このまま俺は床に沈み込んであの顔の一つになる。そう考えている間にも体は床にずぶずぶと沈んでいく。床にいる顔たちは俺を歓迎している。俺たちといれば孤独じゃない。ずっといよう。と俺に言ってくる。
いやだ。死にたくない。あいつらみたいになりたくない。いやだ。いやだ。いやだ。沈む。沈む。沈む。
「っ!!…..はぁ….はぁ…。」
俺は飛び起き、荒れた息を整えた後、深いため息をついた。寝巻は自分の汗でぐっしょりと濡れ不快な感触を俺に与えていた。ベッドの脇を見るとカエデがいた。彼女は心配そうに自分の顔を見つめていた。
「大丈夫、椛?ひどくうな
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