港町を出て数日後、私達は砂漠に近い街へと立ち寄っていた。
活気のあるこの街には、様々な地域の人間や魔物達が、そこら中にいる。
そのためか道幅が大きく、擦れ違う人々との接触もそれほど苦にはならない。
むしろ、大きな魔物が少ないくらいだ。
「今日はもう日が暮れる。明日に備えて、宿を取ろう」
「どこにするの?」
「あまりこの街には詳しくないからな……。とりあえず、近くにあるなるべく大きな場所にしよう。金は家からそれなりに持ってきたから、問題はない」
実家から出て来る際、家にあったほとんどの金を掻っ攫っておいた。
以前から自分の親にはうんざりしていたので、それくらいの仕返しなら、まだ軽いだろう。
当の本人達には相当な痛手ではあろうが……。
「シロ、一応人通りは多いから、はぐれるなよ」
「わかってるわよ」
心配はいらないだろうが、念のためにシロの手を取る。
地図や道行く人に宿の情報を尋ね、ようやく納得のいく宿を見つけた。
それなりの大きさではあるが、値段は良心的だ。
大きな扉を開け、早速中に入ろうとし――
「む」
「ん?」
目の前に、人のソレではない脚が間近に見えた。
ヅカヅカと、木製の床の上を鉄のような蹄が歩いて来る。
顔を上げると、私の身長を遥かに超える長身の女が立っていた。
こいつは……確か、ケンタウロスだったか。
「すまないね。塞いじまって」
「いや……お前は」
「貴様! 腰のソレは剣か!?」
「は? あ、ああ。……いたのか」
随分と下から声が聞こえると思えば、ケンタウロスの横に一人の青年が立っていた。
彼女の存在があまりにも大きいため、気づかなかったのだろう。
青年は私の剣を見ると、不意に、背中の鞘から剣を抜き取った。
「貴様、俺と勝負をしろ」
「……は?」
「俺にはわかるぞ。貴様は只者ではないな」
「いや、私はただの一般人だが」
強いて言えば元騎士団の団長をしていたくらいだが、話がややこしくなりそうだから言わないでおく。
が、青年は唇の端を吊り上げ、不気味な笑みを浮かべた。
「貴様は只者ではない。俺は強いやつと戦うために旅をする『最強の剣士』! これだけでも戦うには十分な条件だ」
「いや、私達はもう休みたいのだが」
「頭、大丈夫なの?」
「なっ、主を馬鹿にするか! ならばお前も私と戦え!」
「ファッ!?」
横ではなにやらシロが地雷を踏んだらしく、ケンタウロスのほうがシロに戦いを申し込んでいた。
ケンタウロスは持っていたのであろう弓の先をシロの顔の前に突き出し、かなり興奮している様子だ。
まずい。シロは武器もなければ武術すら学んでいない。
「待て。シロは戦ったこともなければ武器になる物も持っていないぞ。仮にも戦闘経験のある者ならば、素人に戦いを挑むのはどうかと思う。その勝負、私が受けよう」
「貴様の相手は俺だろう!」
「ならば二人の申し出を私が受けよう。これでも騎士をやっていたからな。人も魔物も、それなりには戦える」
シロを後ろに下がらせ、仁王立ちで対応する。
が、ケンタウロスの反応は予想とは違っていた。
「私だって経験は積んでいるわ。その女が素人ってことくらいはわかる。だから、私達が勝負するのは――あれよ!」
そう言って、ケンタウロスが宿屋の外壁を指差す。
そこには、一枚の壁紙が貼り付けられていた。
壁紙の前まで移動し、内容を読み上げる。
「なになに? 『集え、世界の魔物職人達! 作れ、究極の麺を! ○産麺作り大会開催!(○の中には参加者の名前が記載されます)』」
「麺作り? 大会?」
「この街では毎年この月に、世界各国から様々な料理職人(魔物限定)のための大会が開かれる。今年のテーマは『麺』だ。どんな材料でどんな麺を作っても良し、全ては努力と味で決まる――戦いには持って来いだろう? 決行日は明日の昼時、街の大公園だ」
首を傾げるシロに、ケンタウロスが誇らしげに説明する。
どうやら彼女は、毎年参加しては優勝している熟練者のようだ。
しかし……どうしたものか。
「それでは、勝負する時を楽しみにしているぞ!」
「貴様もだ! 場所は大会の会場前の広場! 見物客を集めておくから忘れるなよ!」
「いたのか」「いたんだ」
「貴様ら覚えてろ!」
青年とケンタウロスは、私達の意見を一切聞くことなく、高らかに笑って去って行った。
私達は数分その場に立ち尽くしていたが、本来の目的を思い出し、宿屋に入り今晩の寝床を確保することが出来た。
すっかり辺りが暗くなり、さあ寝ようという時に、先に眠ったはずのシロが私を呼び止めた。
「どうした、シロ。眠れないのか?」
「どうしよう……あたし、料理出来ないよ」
「そうだったな。ひょっとして、それでずっ
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