うーん、幸せだ。
ただ自分の部屋にいるだけなのに意味もなく幸せだ。
サテュロスさんのお酒を飲んだわけでもないし、
ケセランパサランちゃんの粉を吸ったわけでもないのに、
ただただ、ひたすらに、これ以上ないくらいに幸せだ。
どうしてここまで幸せなのかはわからないが、原因だけはわかる。
「おーい、お前、今度はどんな暗示をかけたんだ?」
「……ふぇ? ……ふにゅう…………」
……ああ、こいつまた駄目になってやがる。
これは俺、また何か恥ずかしいことをやっているんだろうな。
俺の腕の中で、大きな一つ目をグルグルに回してしまっているのは、
俺にはもったいなくも、手放すことなど考えられない、
可愛い可愛い俺の彼女様なわけだが、
人の認識を操れる、いわゆる暗示を得意とするゲイザーの種族柄なのか、
俺もよく認識をいじくられて、からかわれたりする。
「こら、目を覚ませ、目を覚まして俺の目を覚ましてくれ」
「ふにゃあぁ〜〜〜」
しかし、どうにもこいつは押され弱いというか、
自分が暗示でやらせたくせに、
すぐに恥ずかしがって頭をパンクさせてしまうのだ。
「まったく、今回は何をやらせてくれてるのか」
「ふにゅう……にゅうう……」
何かおかしいことをしているのだろうけれど、
それが何なのかはわからない。
今は、思いっきり抱きついて、
頭をよしよしと撫で繰り回してやってるだけだが、
まるで猫みたいな声をだしてなされるがままになってしまっている。
「……しばらく放っておくしかないか、何をしているんだろうな俺」
「……うにゃ〜〜〜」
こうなったなら正気に戻るまで待つしかない。
しかしこいつの力は相変わらず凄いものだ。
何かしら変なことをしているはずなのに違和感が全く湧かない。
もしこんなに幸せでなかったのなら、
暗示をかけられていることにも気づけなかっただろう。
何も気にせずにイチャイチャしているだけで、
特別なことはしていないはずなんだけどな。
とりあえず、ぼんやりと待っていることにする。
何か暇つぶしをしていてもよかったが、何となくそんな気にならない。
抱き合いながら、頭を撫でてやったり背中をポンポンと叩いてやったり、
コロンと寝転がりあってお互いの目を見つめ合っていたり、
耳元に小声で、「好きだぞ、お前のこと大好きだからな」と、囁いてやったり、
ついばむ様にチュッチュと、軽いキスをし続けたりしていただけだが、
何とも言えない幸福感と、相変わらずにゅうにゃあと帰ってくるこいつの反応で退屈はしなかった。
「はぁ〜、なんなんだろうなこの感じ」
ものすごい安心感がありながらも、ドキドキと興奮するような高揚感、
ずっとこうしていたくなるような心地良さがいつまでも終わらない。
……そう、こいつの目が覚めるまでだから、好きなようにしていよう。
「にゃああぁ〜〜〜、待って、い、一回、一回離れて」
「むぉ? ようやくお目覚めか」
うすぼんやりしていたところに、やっと正気の声が聞こえた。
何もしていなかったはずだが、離れればいいのか、
……幸福感が薄れて少し寂しいなんて思っていないぞ。
「うううぅぅ、恥ずい恥ずい恥ずかしい、いっそ思いっきりドスケベしてくれりゃいいのにこんな甘ったるい……」
なにやら小さい声でごにょごにょ言っているが、まあいつものことだ。
気にしないように言われているので気にしないことにする。
「なあ、どんな暗示をかけているのか知らないが、そんなに恥ずかしいならやめればいいんじゃないか?」
「ええい、だまらっしゃい、人の気も知らないで、知らないようにしてるのはアタシだけどさぁ、も〜〜〜」
うーん、そんなこと言われてもである。
こいつは本気になれば俺のことは割と好きなようにできるのだ。
して欲しいこととかがあるならすぐにさせられるのだ。
それなのにそうしないのは、それがどちらかのためにならないことなのだろうから。
「むむむ、操られているのがわかっているのに信じ切った顔をしおってからに」
「まぁ、酷いことはされないってわかっているからな」
そりゃあ信じられますとも。
目の前で「またそんな恥ずいこと言いおってからにチクショー……しゅきぃ……」
と、可愛く悶えてくれる彼女に疑うところなんてないものな。
「さ、そろそろ暗示をといてくれよ、もう気もすんだだろう?」
「……そうね、キミがいいなら、いいわね」
ん? 俺がいいなら?
どういうことだろうと、そう聞くことはできなかった。
「何にも考えずにアタシの目を見なさい!」
「……もう、その恥ずかしいことをやりたがっているのはキミなんだからね」
暗示でポケポケな顔を晒している彼氏
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