さきゅなじみちゃんのチャーム

「やっほ〜、あ、懐かしいゲームやってる〜」
「お前な、窓から入ってくんなっていつも言ってるだろ……暇だったんだよ」
 いくら家がお隣同士で、幼馴染で、お互いの部屋が二階で、窓が向かい合っていて、
 窓から出入りした方が手っ取り早くてこいつがサキュバスで空が飛べるからって、
 やはり礼儀というものがあるのではなかろうか。

「これたしか、子供の頃の夏休みにやってたよね、で、今も夏休みにやってるんだ、なんていうか、変わらないな〜」
「その頃と変わらず窓から入ってくる自分については無視ですかそうですか」
 ほっといてほしい、良いゲームはいつやっても良い物なのだ。

「ねー、暇ならどっか行かない?」
「そうだな〜、今セーブする……うげ、やな敵が出た」
 セーブポイントに向かう途中に出てきた敵は、
 ちょうど隣にいるこいつのように角と翼を生やした、やたらと肌色の多い女悪魔だ。
 ドット絵特有の可愛らしさの中に色気の有るこの手の敵の得意技と言えば一つだ。

「げっ、先手で魅了食らった!?」
「あ〜らら〜、ハートマーク出しちゃって、仲間同士で喧嘩しちゃってる」
 やばい、治ってもすぐにかけ直されてる。
 うわ、味方に必殺使うなって……あ〜、オワタ。

「ありゃ〜、全滅しちゃったね」
「……セーブポイントもうちょいだったのに」
 無慈悲に表示されるゲームオーバーの画面。
 この悔しさは何度味わっても慣れるものじゃない。

「ねえねえ、子供の頃もあの敵にやられてたよね」
「ん? ああ、うん……まあな」
 忘れるはずがない。
 あのダンジョンがそれまでのゲームの難易度に比べてやたら難しく、
 全滅しやすいということ以上に、忘れることができない理由があるのだ。

「あんなのに誘惑されて仲間裏切るとかありえねぇって、べそかきながら言っててさ」
「いやまあ、ガキの頃の話だから、なあ、それよりどこに行くんだ?」
 正直恥ずかしい思い出なのであんまりその時の話はされたくない。

「試してみようかって私が聞いたら、よく分かんないけどあんなの平気だよ、なんて言ってさ……」
「おい! たまには俺の話も聞きやがれくださいお願いします」
 ああ、これはもうだめかもしれん。
 こいつは人の話を聞かないからな。

「決めた! やっぱ出かけるの無し、アレやろう、アレ!」
「え〜っと、一縷の望みをかけて聞くけど、アレってのは……?」
「もっちろん、魅了の魔法マシマシのフルコースエッチでございます」
 ああ、やっぱりか、こいつはたまにだが、いわゆるそういうことをヤる時に、
 これでもかと誘惑や魅惑の魔術を重ねがげしてくることがある。
 そうだ、それを始めてやられたのが、
 小さい頃、このゲームで全滅していじけていた時のことだったのだ。

「なあ、頼むからアレはやめてくれないか……後で恥ずかしすぎるんだよ」
「イイじゃないの可愛くって、アレしてあげると、ふわっふわにとろけた顔でお眼眼ハートマークにして大好き大好き〜って縋り付いてきて来てくれるのがもうたまんなくて……」
「だぁ〜〜〜〜〜! やめて! 本当悶え死にしそうなくらい恥ずいからやめて!」
 アレをやられると、男として、いや人としてダメダメにされてしまうので、
 正気に戻ると自己嫌悪というか、なんかもうどうしようもない感が半端ないのだ。

「でもさ……それだけ気持ちいいんでしょ? 意地張らなくたっていいじゃない」
「う……確かにいいけどさぁ……いや、でもだな……」
「もう、四の五の言わない、ヤるったらヤるの、はい、けって〜い♪」
 そうですよね拒否権なんて無いですよねちくしょうくそう。

「今日は気合入れちゃうよ〜……『我が瞳、我が息吹、汝の心を捕まえ操らん……』」
 ……まあ、いいか、可愛い彼女の我が儘だと思えば、
 拒否権はないと言ったけれど、こいつも本当に嫌なときはやめてくれるし、
 無理矢理ヤる気なら、有無を言わさず魔法を当てればいいんだからな。

 しかし、わざわざゲームの真似して必要のない詠唱まで入れて、
 これは相当に気合いを入れていらっしゃる……今日中に正気に戻れるかなあ。



「んんんんん〜〜〜……いっくよ〜『チャーム』!!!」
 大仰に掲げた手から桃色の光が浴びせられ、目をつぶってしまう。
 そしてその光が落ち着き、目を開くと、心臓が跳ねた。

「は〜い、魅了にかかっちゃったね、これで私のこと大好きになっちゃったね、あ、大好きなのは元からかな〜?」
「ッ〜〜〜〜〜、よ……よく言う……よ…………くぅ〜〜〜」
 こいつのことなんて、いつも見ているはずなのに、
 心臓が暴れて収まらない、ドクドクと血が巡って顔が、体が熱くなる。
 胸が締め付けられるようなキュンとした感覚が収まらない。
 胸に物理的な力がかか
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