「アレ? 俺は……ああ! てめぇぇぇ! また騙しやがったな!」
「アハハハハ、お掃除ご苦労様、いつも悪いねぇ〜」
暗示を解いてやった途端、箒を片手にしたまま響かせてくる怒声を軽く笑い飛ばす。
廊下は、埃一つないほどにピッカピカだ。
別にここまでやれと言ったわけじゃないのに、こいつ根が真面目なのよね。
「いつもいつも掃除当番だの日直だのを暗示で俺にやらせやがっていい加減にしろよ、だいたいなんで毎回決まって俺なんだよ」
「だってぇ〜、あんた昔っから操りやすいんだもん、だからつい♪」
思い起こせば、かなりの年月を同じ学校、同じクラスで過ごしてきたこいつとは、もうかなり長い付き合いだ。
おかげでこいつへの暗示のかけ方のコツもすっかり掴んでしまった。
もう触手の瞳一つで自由自在、とは言え最近はちょっとやりすぎたかな?
「つい、じゃねーよ、バカ女! 究極サボり魔! この人でなし!」
いつもは適当なところで収まってくれて、
帰りに一緒に買い食いでもする頃には機嫌も戻ってくれるから、
本当につい、いたずらをしてしまうけれど、今日のところは悪口が止まない。
こりゃ今日は奢ってあげるくらいしないとダメかな。
そう考えながら、雑言を聞き流していたけれど、その一言だけは聞こえてしまう。
「聞いてんのか、こんの一つ目女!」
「ッ!」
一つ目……
そうよ、ゲイザーだもの、私の目は一つだけだ。
大きくて、ぎょろっとした、キモチ悪い目が一つだけ。
「どうせ……どうせ私は一つ目だよ……」
「あ……やべ、いや、あのな……」
私の方が悪いのは分かっている。
でも、こいつにこの目のことを言われると感情が収まらなくなってしまう。
「うっさい、一つ目で悪かったな馬鹿ーーー!」
「ちょ、待てって、アレ? 足が…… 待てよおいーーー!」
追いかけてこれないように暗示をかけて、逃げる。
なんか言っているみたいだけれど知らない。
あんなやつ、しばらく廊下に立っていればいいんだ。
「あぁもう……どうしよ……」
あてもなく廊下をうろつく。
勢いで逃げてきちゃったけれど、あいつの暗示を解いてやらないと帰るに帰れない。
かと言って、今のこのこ行って解いてやるのも気まずいし、
でも放って帰るのは流石に可哀想だし、う〜ん、う〜〜〜ん。
ぽふ
「キャッ……どうしたのよ、ぼ〜っとして、危ないでしょ?」
「……むぐぅ」
急に目の前が真っ暗になったと思ったら、
廊下の曲がり角で担任の先生にぶつかってしまっていた。
この先生はラミアなので、足音が無かったのだ。
しかし……むにむにと実に柔らかい……ぐぬぬ。
「ぷは……すんません、何でもないッス」
「……何かあったって顔に書いてあるわ、こっち来て、先生に話してみなさいな」
あれよという間に空き教室に引っ張り込まれてしまった。
巻き付かれての強制連行である、やっぱり柔らかい……ぐぬぬ。
「……やぁ、まあそんな感じで、いつもの喧嘩なんで心配いらないすよ」
「そうだったのね、あなたたち二人もしょうがないわねえ」
こうなったら仕方ないので、先生に素直に事情を話す。
隠すようなことでも無いし、ごねると時間もかかるし。
「毎回そんなことされたらたまには怒りたくなるわよ、ちゃんと謝って暗示を解きに行ってあげなさいな」
「うぅ〜〜〜、それは分かってるんす、分かってるんすけど……」
自分が悪いことは分かっているのだ。
いつもはすぐに軽く謝って、あいつも許してくれるのだ。
だけど、一つ目呼ばわりされたことがすごく引っかかる。
喧嘩の勢いで言われただけだって分かっているのに。
あいつはそんな事で差別するような奴じゃあないって分かっているのに。
「もう、あなたの彼氏なんでしょ、ちょっとした失言くらい受け流してあげなさいな」
「ゲッホ!? ちょっ? ちげーッスよ! あんなの彼氏なんかじゃねーッスよ!」
いきなりなに言うんだこの蛇。
よりにもよってあんな奴が彼氏とか、彼氏とか……
「あんなにいつも一緒にいていまさら何を言っているのよ、むしろ、まだくっついてなかったのかって驚いたわよ」
「う……でも、あいつが彼氏とか……うぐぅぅぅ〜〜〜」
長いこと一緒に遊んでて、いたずらする私を許してくれて、
一緒にいると楽しいし、確かに私はあいつのこと、あいつのこと……
「彼氏……あいつが彼氏だったら……彼氏になってくれたら……うぁぁぁぁ〜」
「……そんな反応するならもう決まってるも同然じゃない」
色々と取り止めの無い妄想に襲われ悶える私に先生が溜息混じりに言う。
でも、肝心のあいつは私のことをどう思っているのか、
いたずらばっかりしているし、胸、無いし、
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