敏感×敏感

「これで終わりにゃ、いやー、手伝って貰っちゃって悪いにゃ〜」
「いえいえ〜、お気になさらず〜」
 荷物運びのお手伝いを終えたあたしに、スフィンクス様が声をかけてくれる。
 でも、こうして砂漠の遺跡の雑務をこなすことも、マミーであるあたしの仕事の一部なのだから当然のことなのだ。

「でも、今日は君はお休みの日だったはずだにゃ、なのに手伝ってくれたにゃ」
「いや〜、これだけのお荷物を〜、お一人で運ぶのは大変そうでしたから〜」
 運び込まれた荷物は、食べ物や生活必需品、
 中々の広さがあるこの遺跡の皆の分ともなると、かなりの量になる。
 一人で運ぶとなると、人より強い魔物娘であっても、
 相当にくたびれる仕事になっただろう。

「ん〜、偉いにゃ! 感動したにゃ! お礼にコレあげちゃうにゃ!」
 スフィンクス様は荷物から袋を一つ取り出し、あたしに渡してくれた。
 中身は……色とりどりの野菜、砂漠ではもちろん貴重な食べ物だ。
 特に赤い芯を持つ葉物の野菜が目を引く、保存処理のされていない葉っぱの生野菜など、そうそうお目にかかれる物ではない。

「こんな高そうな物〜、受け取れませんよ〜、それにこれは皆の物では〜?」
「大丈夫にゃ、それは個人的に取り寄せた物にゃ、遠慮なく受け取るにゃ」
 う〜ん、そう言われても気が引けてしまう、本当に当然のことをしただけなのに……

「これで君のご主人様に美味しい物でも作って褒めてもらうにゃ」
「ありがたく頂戴いたします!」
 魔物娘にとって旦那様は何よりも優先されるのだ、あたしは悪くねぇ!





「さ〜て〜、何を作ろうかな〜」
 ここは遺跡の中のあたしと旦那様の部屋。
 夫を手に入れた娘には、小さいながらも夫婦専用の個室が与えられるのだ。

「野菜炒め〜、煮込むならス〜プとかカレ〜とか〜、せっかくの生野菜だから香辛料をまぜて〜、スパイスサラダなんかもいいかな〜?」
 キッチンに並べた食材を、どう料理して見せようか考え込む。
 腕によりをかけて美味しい料理を作って、旦那様に美味しいって褒めてもらって、ご褒美に頭撫ででもらったりしちゃってそれで体いっぱい触ってもらっちゃったりしてそれでそれでいっぱいいっぱいシてもらっちゃったりしてイヤンイヤン…………

 いかんいかん、落ち着けあたし、素数でも数えて落ち着くんだ。
 ……さて、まずは目立つあの野菜をどうするか決めようかな。

「葉っぱを使うなら〜、やっぱりサラダかな〜、赤い芯も食べられるのかな〜? ともかく、味も見ておこう〜」
 何せ見たこともない野菜だ、どのような物か確かめなければ料理も決めようがない。
 芯を包む外側の葉を一枚ちぎって食べてみる。

「お〜、すごくシャキシャキ〜、美味しい〜」
 シャクシャクと小気味良い音とともに、
 ほんのり甘みを伴う旨みが口いっぱいに広がっていく。
 乾燥した保存食の多い砂漠では、まさに新鮮な食感だ。

「うんうん〜、これならサラダに決まりだね〜、あ、もう一枚〜」
 あまりの美味しさに、ついもう一枚、葉をかじってしまう。
 不思議と一枚目より少し美味しく感じるのは先ほどより内側の葉だからだろうか?

「むぐむぐ、うん、やっぱり内側の葉のほうが美味しいな〜、もうちょっとだけ……」
 シャクシャク、シャキシャキ、パリパリモグモグ。
 あ、あれ? こんなに食べたら無くなっちゃう……
 でも止まらない……なんだか変な感じ……

「ん……もうちょっと〜、あと一口〜、んん……美味しい〜、……?」
 なんだろう、体が……なんだかむずむずしてきた。
 マミーの敏感な肌を保護するための包帯はしっかり巻いてあるはずなのに、
 むしろ包帯のある部分がむず痒くうずいてくる。

「ん……んん……ゴクッ……ああ……こ、これ〜、芯も食べられるの、かな〜?」
 無視できないほどに疼きがひどくなり始めても、つまみ食いがやめられない。
 包帯を無意識に緩めてしまう、体が暑く火照り、むず痒さに耐えきれない。
 心のどこかでおかしいとわかっているのに、葉をつまむ手は止まらず、
 不思議な赤い輝きを放つ野菜の芯から目が離せなくなってくる。

「が、我慢、できない〜、もう……だめ、これも、食べる〜」
 素肌をさらすことによる敏感な肌の快楽に体を震わせながら、
 誘惑するように輝くその芯をとうとうかじってしまった。
 グミのように柔らかくも弾力のある食感と、
 甘みの濃縮された、果物のような旨みが口いっぱいに広がっていく…………





「ただいまって、なんだ! どうしたんだ!?」
「……!? アナタァァ〜! た、助けてぇ! アナタァ〜〜〜!」
 帰ってきてくれた旦那様に必死に助けを求める。
 なぜだかよくわからないけれど、
 気が付いたら体がむず痒くてむず痒
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