二話 信者になった冒険者と魔女と触手

 餌が、餌がほしい。
 うごめくそれは、飢餓感に蝕まれていた。
 魔力が枯渇し、それを求めるままに獲物を見定める。
 その先には、机に向かう小さな少女の姿があった。
 ゆっくり、ゆっくりと、背を見せている獲物に鎌首をもたげ……





「こーら、もう少し待って」
 ポスンと頭に乗っかってくる触手をたしなめながら、
 私はリコ様に渡す触手の観察日誌を書いていた。

 触手の成長速度はとても早く、
 僅か三日で私の全身に絡み付けるくらいの長さになってしまった。
 ……成長したというよりは伸縮が利くといった方がいいだろうか。

 どう言う仕組みなのか分からないが、
 最初の鉢植えに隠れられるくらいの大きさに戻ることも出来るし、
 最大の長さ、これが日を追うごとに私の胴回り三周分は長くなっていくのだ。
 おまけに今朝なんか、根元から二股に分かれて二本になって見せたのだ。
 これも出し入れ自由なようで、片方を縮めて一本に戻って見せた、便利な体してるなあ。

 あまりの育ちっぷりに慌てて報告を上げたものの、
「ふむ、魔物の魔力で成長できた個体はより強力になるのかもしれんの」
 とだけ言われて、続けての観察を命じられてしまった。
 確かにこういった結果も貴重な情報になるとは思うのだが、
 餌が餌なだけに、本当に大丈夫なのかと不安になってしまったのだ。





「おまたせ、おいで……」
 日誌を書き終わり、触手へ向けて手を伸ばす。
 これからこの触手にその餌をあげなければいけないのだ。

 にゅるにゅる にゅるにゅる

 嬉しそうに体を激しくくねらせる触手、
 まだ短い付き合いだがこの子に感情があるのはもう間違いないだろう。
 なかなかに悪戯好きで、餌を上げている最中は特にそれがひどくなる。

「ン……ほーら、慌てない……」
 待ち切れなさそうに私の体にまとわり付く触手は、
 今伸びうる最大の長さをもって私に催促してくる。
 愛嬌のある動きで軽減されているとはいえ、
 男の人のそれに似た触手に触れると言うことには、
 まだ少しだけ気恥ずかしさを感じてしまうのだ。

「それじゃあ……あげるね」
 痛くないようにそっと触手の先端を両手で包み込むように掴む。
 嬉しさに興奮してはねる触手に少し戸惑いながら、
 芯に感じる硬さを意識できる程度の加減で手に少しずつ力をこめて……





「ハァァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
 両手に魔力を集中させて、それを触手に流してあげる。
 いや、こんなふうに思いっきり気合をこめてやる必要はないのだが、
 初日に緊張しすぎてこのような感じであげてしまい、
 それからすっかりこのノリが癖になってしまったのだ。

 しばらくそうして魔力を送っていると、
 満足した触手は自分から体を離してくれる。

「あら、もういいの?」
 そう聞くと、うなずきながら体を躍らせる、かなりご機嫌のようだ。
 大きくなった分、あげる魔力も増えるかと思ったが、
 別段そういうわけでもないようだ。

「うん、大丈夫、だよね」
 そう、不安にもなったが今のところは無理矢理エッチなことをされたり、
 それで強引に魔力を吸われたりするようなことは一切なかった。
 ……私だって魔物娘だ、エッチなことには興味があるが、
 やっぱりそう言うのはお兄様としたいのだ、と言ってもまだお相手はいないけれど。

 そういえば、結局リコ様は触手の育て方等については教えてくれたが、
 お兄様が出来ると言うことについては後のお楽しみだと秘密にされてしまった。
 面白い性質と言っていたが、今のところ特に何かをしてくれる様子は見られない。

「お兄様かぁ……ねえ、私にはどんなお兄様が出来るのかな?」
 ふと、触手にそんなことを聞いてみる。
 触手は動きを止めてまるで私をうかがうようにこちらに身を向ける。
 何か考えてくれているのだろうか、しかし、喋れないので当然返事は返ってこない。

「貴方がいると私にお兄様が出来るって言われたけれど、どういうことか分かる?」
 返事の出来ない触手に半分独り言のように話しかけ続ける。

「まあそう言うことが出来たとしても、まず周りに男の人がいないと無理だよね」
 私の身近にいる男の人といえば、私の脳裏に先輩と慕ってくれるライト君の顔が浮かぶ。
 ライト君ならまあ……やぶさかではないと言うか……むしろ良いかもしれないけれど。
 でも、ライト君にとって私は先輩であって、妹にはしてくれそうにないなあ。

「それでも、もしもライト君がお兄様になってくれたら……きっと……」
 きっと……先輩なんてつけないで、呼び捨てにして頭なんか撫でてくれたりして、
 それで私も抱きついたりなんかして、そしたら、そうだ、冒険者やっていたんだから、
 意外としっか
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