とある見習い狩人の末路




『山を下りるまでは気を抜くな。』
 父さんのした忠告の中でももっとも頭に入れておくべきだったのはこれだったのかもしれない。





 その日、僕は初めて一人での狩りをした。あと一カ月で十三になる僕が、どれほど狩りの技術を身に付けたのか。父さんは僕の実力をみたかったらしい。
 実際、狩りは完璧といってもいい出来だった。途中、真新しい足跡をみつけ、狼の群れが近くにいることを察知して危なげなくやりすごし、ノルマの野ウサギも一羽といわず二羽しとめた。少々深く山に入ってしまったが、日没どころか日が傾く前には村へ帰れる時間には狩りを終えることができた。

 初めての狩りで満足いく成果を上げて、僕は浮かれてしまっていた。

 下山する途中、服の裾にクモの巣がついているのに気がついた。もし、必要な警戒心を保っていれば糸のついた部分を引きちぎって対処しただろう。でも僕はあろうことか素手でそのクモの巣をとろうとしてしまった。
 糸は、それを払い落とそうとした指に絡まり、ふるい落とそうとして振った手をさらに捕らえる。引きちぎろうとして腕を引けば、茂みをガサガサと鳴らして、糸が茂みの奥から巨大な巣をひきつれてきた。いつのまにか糸は僕の二の腕にまで絡みついていた。
 そこに至ってようやく危険を察知した僕は、クモの巣の連なる茂みに注意をむけつつ、腰に付けた鞄に空いているもう一方の手をのばした。
 …火傷はするだろうが焼き払うしかないだろう。

「どこ見てるの、ぼうや?」

 しかし、鞄に手が届く前に何者かが僕の腕をつかんだ。
 警戒していた茂みの反対側へ振り向くと、まず目に入ったのは真っすぐに地面に向かったさらさらの藤色をした長い髪だった。
 その何者かが顔にかかった髪をかきあげると、その美貌があらわになる。通った鼻筋に、雪のように白い肌。長いまつ毛に彩られた切れ長の目と、ふっくらとした柔らかそうな唇が嗜虐的に弧を描いている。目線を下ろすと、たわわに実った乳房が存在感を放ち、締まった腰の曲線美が華を添える。
 だが、その妖しく光る額にある六つの眼と巨大なクモのような下半身が、彼女が危険な存在であることを示している。

「うふふ。可愛らしい狩人さんね。」
「…っ!この、魔物め!」
「!」

 手を返して相手の手首を捻る。さらに、不意をつかれて腕を掴む力が弱まったところをつま先で蹴り上げる。そしてすかさず解放された手で鞄から火種を取り出そうとする。
 …しかし抵抗はここまでだった。

「あらあら、乱暴な子ねぇ。…ふふふ、これはおしおきが必要ね。」
「く、くそっ…!」

 アラクネは巧みに糸を操り、目にもとまらぬ速さで僕は鞄に手を突っ込んだ状態でぐるぐる巻きに拘束されてしまった。
 アラクネは嗜虐的な笑みをさらにニヤリとゆがめ、僕を抱え上げた。

「それじゃあ、帰りましょうか。私たちの家に。」

 アラクネはこれから起こることが楽しみでたまらないというような調子で僕にそう告げた。





 …今僕は、上半身は裸にされ、手は頭の上で縛られて天井から吊るされている状態で、ベッドの上に座らされている。
 このような山の中にアラクネが住めるようなやけに立派な家が建っていることに驚いたが、もちろん人はおらずアラクネが住みついているだけらしい。部屋のドアにも鍵をかけられてしまっている。そもそも手の拘束がとれそうにない。逃げ出すことはできない。
 僕は自分の不注意を悔いた。これから僕はあのアラクネに食べられてしまうのだろう。
 そう考えているとドアの鍵が開けられる音がした。全身が緊張で強張り、背中には嫌な冷や汗が流れる。僕はまるで出来の悪いからくり人形のようなぎこちない動きでドアの方を見た。

 ドアが開いた先にいたアラクネの姿は全く予想だにしないものだった。

 透き通るような白い肌を惜しげもなくさらし、両手でも包みこめそうにないほど膨らんだ胸の先には桜色をした乳首が鎮座している。先ほどまで甲殻に覆われていた人とクモの体の境目にはつるりと無毛の肌にぴっちりとと閉じた割れ目が露わになっている。
 つまり、アラクネは素っ裸で部屋に入ってきたのだった。
 アラクネの行動はさらに予想の斜め上をいき、あっけにとられる僕にしなだれかかるようにして抱きついた。

「…嗚呼!妹に遅れること六年、ようやく私にも春が…っ!…ふふふ。」

 アラクネはわけのわからないことを呟きながら僕に頬ずりをする。豊満なおっぱいが僕の胸板に当たってむにゅむにゅと柔らかい感触を伝えている。浅く早い呼吸で吐き出される熱のこもった吐息が僕の頬を這いずり、唇に近寄ってきたので思わずアラクネから顔をそむける。

「…ふふふ。つれないのね。」
「っくぁ…」

 顔を逸らされたアラクネは笑みを深くすると僕の首筋
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