「空白」を取り戻したい的なお話

「おいあんた、見えて来たぜ。」

 馬車をガラガラ響かせながら御者は、声だけで荷台に乗る青年を起こす。

「う…あの外壁…間違いない、ルージュリナだ。」

 眠い目をこすりながら短い金髪に薄い黄色の瞳を持つ青年、シトリは、それでも神妙な面持ちで見えてきた外壁を見つめる。思い出すのは数日前の叔父と父の会話だった。

「ルージュリナが親魔物領になり…魔界化したそうだ。」
「なに?あんなにも大きく栄えていたルージュリナがか?」

 久々に家を訪れた叔父は父に向けてそう言い、父は顎鬚を弄びながら懐疑的な目を向けていた。

「お前の住んでいた頃はな。最近では花はともかく鉱石が全く取れず、徐々に衰退していったらしくな、そこを突かれて街長共々魔物に襲われ、陥落した…って噂だ。」
「ぬぅ…十年…十年も経てば変わるか。あの美しい街がな…残念だ。」
「ねぇ叔父さん!ルージュリナには行ったんですか!?」

 辛抱堪らずシトリは会話に割って入り聞いた。二人はギョッとしてシトリを見つめ、叔父は咳払いをすると話し出した。

「いや〜、行ってはいない。ルージュリナの近くの町まで行って話を聞いたんだ。噂話とは言え、親魔物領の土地など怖くて近づけんよ。」
「シトリ、お前ルージュリナに何かあるのか?」
「いやその、ルージュリナにはたくさん思い出があるから…だからどうなってしまったのか確かめたいんだ…あの子の事も…。」
「あの子…?それはまさか隣に住んでいた宝石商の所の御令嬢の事か?」
「う…覚えてたんだ…;」
「覚えているとも。私の仕事の都合とは言え、お前にとって初恋の子にあんな別れ方をしたのだからな。」
「は、初恋だなんて、それとは違うよ!!///」
「…しかしそうか…シトリ、どうしてもルージュリナに行きたいか?」

 父は恥ずかしがるシトリを無視して肩に手を置くと、真摯な目で伺った。

「…あぁ、行きたい!確かめなきゃいけないんだ!」
「ならば馬車を用意しよう。準備しなさい。」
「お、おい!ジバル!いいのか自分の息子をっ!?」
「いいのさ兄さん。こいつがこんな感じになる時は必ず何か行動を起こす時だ。どうせ駄目だと言ったところで夜逃げなりなんなりしてルージュリナへ向かう…ならば手を貸すさ。それにこいつはもう二十歳だ。自分で考えられるさ…」
「う…;」

 すべてお見通しな父に頭が上がらないでいると、父から旅行用のバックと短剣を手渡された。

「これは私のお古だ。お前にやろう。」
「父さん…。」
「…幸せに、な。」
「へ…?」

 最後に父はそんな言葉を呟いたような気がしたが、良く聞き取れなかった。
 そんなこんな物思いに耽っていると、いつの間にか壁門を通り過ぎて街中へと入るところであった。

「…戻って…来たんだよな…?」

 シトリはポカンと口を開けたまま街中を見渡す。
 外壁から先にあるこの広場から見る景色に記憶との違いがあまりない。しかし明らかに歩いている人が少ない。そしてその歩いている人に紛れて、魔物が極自然に歩いていた。

「ありがとうございます!それでは!」
「おう、気を付けろよ。」

 御者と別れ、記憶を頼りに昔の家までの道を辿り出す。

「…う〜ん、十年前の記憶じゃ流石に無理かなぁ…どこだろうここ?「トリコロミール」?…カフェかなこれ??」

 今歩いている広い通りは、シトリの記憶には存在しなかった。周りの家屋を見ると比較的新しい建物である事が分かり、十年の間にできた通りである可能性が高かった。すなわち迷子なのだと確信し、頭を抱える。

「…仕方ない、ガイドセンターはまだ残っているはずだから、そこで道を聞くかな…あ、ここがどこかもわからないじゃん;」
「もし?お困りかしら?」
「うっ!!?///」

 シトリが一人唸っていると、そこに美しい女性の声がして即座に振り返った。
 そこにいたのは銀の長髪を棚引かせ、胸元をざっくり開いた赤いドレスを身に纏う絶世の美女だった。しかし、妙だった。その人の姿を見た途端、否、声を聴いた途端に、頬が熱くなり身体が金縛りにでもあったかの様に上手く動かないのだ。
 身体の中で唯一動く箇所があったが、その部位は何と陰茎。陰茎のみがムクムクと膨張を始めたのだ。

「見たところ迷子の様だけれど…どうかしら?私が迷わない様に行きたいところまで道案内してあげよっか?
#9829;」
「あ…あ…///」

 妖艶に微笑む美女の姿に、目が離せない。ドレスの左サイドにはスリットが入っており、チラリと白い太腿が見え隠れする。
 そこでシトリは思ってしまった。

(僕はこの人に誘われてる…///)
「そう…いい子…
#9829;」

 そう思った途端足が自然と美女の方へと歩き出す。

(…シトリ!)

 そんな時、シトリを呼ぶ声が聞こえ
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