メリルの姉を捜して既に二年以上の月日が流れ、俺はすっかり大人の体へと変わっていた。
変わらぬのは銀色の髪と紅い目だけ。身長も伸びれば、声も少し低くなった。ブレスレットは埋め込まれたルビーの輝きを損なわず、ただこの二年九ヶ月の間、俺の腕に輝き続けている。それが俺に憤りを覚えさせた。
去年の春、俺は思わぬ人に再会した。名前はソフィー=クレドリック。俺に魔力の扱い方と、精と魔力の双方を持っていることを明らかにしてくれた世界でも指折りの聡明なケンタウロス。
彼女の流れるような金色の毛はその鍛えられ、またしなやかでもあるその身体と相まって、美というにふさわしい印象を与えるのだ。
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俺が彼女、師と出会ったのはある都市に立ち寄った時だった。ジパングを離れ、暫くした頃から突然魔法を上手く発動できなくなってしまったのだ。それに伴って、魔力をコントロールして筋力を増加することにも滞りが出始めた。
このままだと、命に関わる。そう判断した俺は、医学、魔法学、その他あらゆる知識、情報がそこに集まると言われている都市『オーデンダイア』へ立ち寄った。
幸い、症状が発症した地点と、オーデンダイアはそう遠くなく、また強力な魔法でその付近には許された魔物しか近づくことは出来なかった。
オーデンダイアは町の中央の巨大な図書館を中心に作られ、そこに住む殆どの人間、魔物が学者や魔導師である。白や水色を基調とした町並みはそのまま神々しく、まさに聖域のような印象を与えた。
俺は図書館に向かうと10階から16階まである魔法、魔力の文献のあるエリアへ直行した。
ところがその数の多さに、俺は生唾を飲んだ。一階の壁が丸々本棚で、上の棚には梯子がなければ届かない。それと同じものがあと5階分もあるのかと思うと頭痛がする。
そんな俺に声を掛けたのが彼女だった。
「もしかして…ワイト、か?」
「え?……ソフィー先生?」
「やっぱりワイトじゃないか、どうしてこんなところに。いや、まず座ろう、ここでたちばなしもなんだからな」
俺は先生に促されるまま、高い椅子に腰を掛けた。先生は立ったまま高めの机に肘をついている。ここの机や椅子はかなり高い。
「もう六年、七年ぶりか?ずいぶんと変わったな」
「当たり前です、俺ももう16ですから」
「どうしてここに?まさか私を捜してということでも無かろう?」
「はい、どこから話せば。あぁ、まず俺の両親は三年前、病気で亡くなりました。俺はそれを機に放浪の旅へ」
「ご両親が…そうか、知らなかった。いずれ、墓にも参らせてもらおう」
「ありがとうございます、両親もきっと喜びます」
俺は軽く頭を下げた。
「放浪の旅か、苦労も多いだろうに」
「まあ多少は。ですがこの体質がかなり重宝してます」
「そうだな、生まれ授かった才能というべきかなんと言うべきか。やはり多くの魔物と戦ったろう」
「はい、幸運なことにサイクロプスのクロアという娘に武器をもらい受けました。俺と相性が中々いいみたいで。ですが、今までに魔物、人間共に一人も死なせてはいません」
「お前らしいな、最小限の被害で済ませようとする」
先生はフフッと笑った。
「ここに寄ったのは、実は先生に会いに来たというのもあながち間違いではないんです。ただ会えるとは思っていませんでしたが」
「どういう事だ?」
「最近、魔力をどうも上手く使えないんです。昔から無意識にしていたコントロールも」
「理由は分からないのか?」
「ええ、それを調べに」
先生は少し考えてから、「よし、付いてきなさい」と言って歩き出した。俺は先生の後を付いていった。
先生は図書館から出ると町の南へ歩き出した。そこは魔導機関を使った医療器具の研究、実用がされているところだった。
「ここだ」
先生が止まったのは研究棟らしき建物の前だった。先生は扉を開けた。
「キース、キース=ベアマンッ、いるか?」
と叫んだ。中は暗く、魔導機関の部品が散らかっていた。
「そんなに大声出さなくても聞こえるよ、ソフィー」
奥から出てきたのはボサボサの山吹色の髪の男だった。顎髭を薄く生やして、タバコをくわえている。
「済まないがここの魔導器具を貸してくれ」
「いいけど、彼は誰だい?」
「ああ、話したことがあるだろう、精と魔力を持つ少年を。彼がそうだ」
「ワイト=クロウズです」
「ああ、君が彼女の言っていた少年か」
「ワイト、彼はキース=ベアマン。ファミリネームは旧姓のままだが、私の夫だ」
夫ね…夫おぉぉっ!? げっほ、ごほっ、けほっ…はぁ、はぁ、お、思わず咽せちまった。
まさか結婚してるなんて思ってなかった。
「初
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