旅に出て一年と数ヶ月。俺は背が伸びた、と思う。靴も服も少し小さくなって、前の町で買い換えてきた。
髪もだいぶ伸びて、今は後ろで束ねている。今になって、何で前の町で散髪しなかったんだ、と自分に疑問を抱く。が、もう二日前の事で、今から戻るには遠すぎる。
あ、そうそう。あのサイクロプスに貰ったカタール剣。かなり丈夫で、未だに刃こぼれ一つしない。まあ、そんなになるように使っていない、と言うのが現状だが、籠手の部分も未だに傷のみで済んでいてヒビはない。
俺は今また次の町を目指していたが、もう見えてきた。
「何だ?」
俺は別の道から2つの人影が歩いてくるのを見つけたが、前の一人は後ろの一人に話しかけながら歩いているように見える。それに前の一人は何だか人間じゃないみたいだ。
「なぁ、私の夫になってくれ」
「だから、無理だって言ってるじゃないか…」
「なんでだ?」
「俺は、魔物と結婚する気はない」
「私はぜーったいにお前が私と結婚すると言うまで離れない!」
金色の長い髪、緑色の衣服と鎧、そして尻尾、腰に携えた長剣。彼女はリザードマン。
後ろは人間の男だ。がたいが良く、金色の短髪の大きな男だった。
聞こえてきた内容から察するに、多分リザードマンに求婚されているのだろう。
「…しつこいな」
男は剣を抜くと彼女に振りかざした。俺はそれを見るなり、道を外れて二人の方に向かっていた。そしてカタールを男の剣に向かって投げた。
剣の刀身を掠め、カタールは地面に刺さった。
「っ…!…誰だ、貴様」
「旅の者だ、失礼だが話を聞かせて貰った。結婚する気はないかもしれないが、だからと言って剣を向けることはないだろう?」
「ちっ…」
男はすぐ目の前の町へ入っていった。
「あっ…」
リザードマンの彼女はすぐに追いかけようとしたが、俺はそれを止めた。
「まだ追うのか?殺され掛けたのに」
「それでも私はあの男が…」
「そうか。お前は今日はこの町に?」
「ああ」
俺と彼女は一緒に町に入り別れた。俺はその後、宿を見つけて買い物に出た。地図を見ればこの次の町までは五日ほどかかりそうで、今の食料では間に合わないのだ。それに薬や薪木も切れてきた。
市に行くと肉や魚、色とりどりの野菜が売られている。そこで俺はまた彼女に再会した。
「また会ったな」
「あ、お前はさっきの」
彼女の手には髪の買い物袋が抱えられていた。
「そう言えばまだ礼を言っていなかったな、ありがとう。私はメリル」
「俺はワイト、ワイト=クロウズ」
「ワイト、か。覚えておこう」
「さっきの男、どこで会ったんだ?」
話に寄ればあの男は、一週間ほど前、腕試しで彼女を負かしたのだという。そして惚れ込んでしまい、そしてほぼ毎日町を出る彼に求婚を求めているのだがずっと断り続け、さっきの場面に俺が遭遇したのだ。
男はこの町に住む独り身の戦士で、腕が立つと評判なのである。
そして俺たちはその男と町中で再会した。
「またお前か。ん、貴様はさっきの…」
「クロウズ、私はここで」
「ああ。それじゃ」
メリルはそう言って人混みに紛れてしまった。
「なんだ?あの女と恋仲になったのか?」
「まさか。彼女はまだお前のことが好きらしい」
「全く、傍迷惑な話だ。リザードマンの習性というのは」
俺たちは歩きだした。
「そう言ってやるな。習性かもしれないが、それでも彼女は真面目らしい」
「そうかもしれんが、俺はその気は全くない」
「だからといって、剣を向けるのはどうかと思う」
「俺はただ脅して離れて貰おうと思っただけだ。別に殺そうとした訳じゃない」
「かもしれないけど、何かあってからじゃ遅いからな」
「がはははっ…確かな。坊主、名前は?」
「ワイト=クロウズ」
「俺ぁベリウス=シトラリウス。今はこの剣だが、俺の愛剣はもっとデケェ。一回見ていくか?」
「ああ、買い物の後でな」
「そうか。俺んちは町の北側だ。黒い屋根の家だからすぐに分かるだろ」
「分かった。後で寄らせてもらうよ」
ベリウスはそう言ってまた人混みの中に…なにぶんでかいので頭が出ているが、一応消えたとしておく。ぶっとい腕に、日に焼けた四角い顔、蓄えた顎髭に厚い胸板。屈強な男の代表と言った感じの男だった。
俺は買い物を済ませて宿に戻った。そして荷物を置くとベリウスの家に向かおうとした。
その時、宿の階段の際の部屋からメリルが出てくるところだった。
「メリル、あんたもこの宿だったのか」
「おお、クロウズじゃないか。奇遇だな。今からこの料理をあの男に持っていこうと思っているのだ」
「ベリウスにか?」
「ベリウス、そうか、ベリウスというのか
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