騎士団の追撃

 夜が明けた。ミリアリア(ミリィ)、ジャン、メグ、そしてベリオンの四人はバンテラスの南西の岩山、バドギナ山岳地帯で仮眠をとった。
 バドギナ山岳地帯はバンテラスの南西地点、即ち彼らの進入地点を南の端としてそこから緩やかな弧を描くように北西に続いていた。全長302キロとし、途中から川が始まっている。別名はバドギナ岩柱地帯ともいった。
 四人のとったコースからすれば、風景が変わるまでには二日かかる事になった。
「………」
「―でよ、そいつが…」
「へぇ〜、それってさ…」

 仮眠を取って出発した瞬間から、ジャンとメグは他愛のない話で盛り上がっている。しかし、それに対してミリアリアとベリオンは黙りこくっていた。
「…あのよぉ、お二人さん?黙ってないで何か喋れよ」
「そ〜だよ〜、長い旅になるんだし、もうちょっと楽しく行こうよ〜」
 ノンキ、実に呑気だ。二人は立ち止まって、ミリアリアは溜息をつき、ベリオンは辺りを見回した。
「お前達、良くそんなピクニック気分で居られるものだな?」
「ピクニック気分なんかじゃないよ〜」
「じゃあ、ハイキングか?…どっちでもいい、お前達には危機感というモノがないのかっ?!」
「二人とも」辺りを見回していたベリオンがジャンとメグに向いた。「俺たちは今、一つの要因を発端のする幾つかの危機に直面している…」
「そう」

 二人はアホのような顔で小首を傾げていた。それを見た二人は溜息を漏らし、ベリオンが説明を始めた。
「いいか、一つの要因というのは、騎士団が俺たちを標的にしたと言うことだ。
 そして危機というのが例を挙げれば、まず『敵の追撃対の規模が分かっていない』、『敵の追跡ルートが分かっていない』、そして『強襲に適した地形の中に俺たちが居る』ということだ」
「敵の規模が分からなければ、応戦するか逃走するかの選択を誤る。
 ルートが分からなければ挟み撃ちの危険もある。
 そして高所から岩を転がされれば私たちはペシャンコだし、隠れる場所も豊富にある。弓矢の雨、というのもあるぞ?」
 それを聞いてやっと危機感を覚えたのか、二人は辺りを不安げに見回し始めた。
「安心しろ、今は敵の気配はない。だが急がないと俺たちはその手中にはまる」
「分かった。よし、大丈夫だ、行こう」
 ジャンとメグはさっきとは打って変わって静かに回りを警戒しつつ歩き出した。
「やれやれ…どうしてあいつらが今まで生きてこれたんだか…」
「そういうなよ、ミリィ。ああいう奴らも居ないと息も詰まってしまうさ」

 そんな四人を遠くから見つめる影。影は望遠鏡を下ろし腰に釣り下げると、馬を駆って何百メートルか離れたところに立っていた一人の男の前で留まった。
 彼は馬から下りると男の前で右手に拳を作り、左胸に当てた。
「隊長、ここより北北東に反逆者ベリオン=ヴァン=ガルーダ、及び以下三名発見いたしました」
「よし…」
 隊長と呼ばれた左頬に傷のある男は、静かに振り返った。
「聞けぇっ!ここから北北東を、裏切り者であるガルーダが進行中であるっ!親魔物派っ、魔人の騎士団などというならず者どもに肩入れした、愚かな裏切り者をこの手に討ち取れっ!
 戦闘配備だっ!馬を走らせば追いつけるぞぉっ!」
 配下の騎士達は「おおぉっ」と声を上げ、馬に飛び乗った。約六十名の騎士達が、この地帯の名の由来となった柱のような特有の形をした岩々の間を駆け抜けていった。


 もう太陽は頭の上に来ていた、川に差し掛かると言うところで四人は水源の水を口にしていた。
「っは〜、うっめ〜」
「そうだな、水はいつも澄んでいるものだ…」
「ミリィ、どうした?」
「ん…いや、済まない。どうして、この世はそう澄み切ってはいないのかと思ってな…」
「今なら、誰でも思うことだろうな…。だとしても、今は剣を持たなければ、この先も血を血で洗わせる事になる。ずっと、赤く濁ったままにはさせられないっ」
 ベリオンはその目を細め、眉間に少しシワを寄せて川の向こう岸の地面に視線を向けたが、その目が見ているのはもっと遠くのように三人は思った。

 だが、感傷に浸る間は無かった。遠くから迫る馬の蹄の波を感じたからである。
「三人とも、来たよ。いっぱい」
「ああ、ちょっと見えたぜぇ」
「…街から追ってきたにしては、数が多い…そうか、出ていた部隊か…!」
「私が見たところでは…ここは逃げた方が良さそうだな…」
「ああ」
 まだ距離は離れていて、上手くすれば逃げられる可能性はあった。だがただ逃げられる可能性は殆ど無かった。つまり、何か手を講じれば逃げられるのだが、その手を間違えば面倒なことになるのは必須だった。
 四人は全速力で走った。だがだんだん馬のその音が大きく鳴っていることは目に見えていた。「どうするんだよっ?!」ジャンが走りな
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4 5 6]
[7]TOP [9]目次
[0]投票 [*]感想[#]メール登録
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33