闇に紛れて森の中を疾走する三つの影。
影達は、防壁に囲まれた町の目前にてその足を止め、木々と闇を隠れ蓑に様子を窺っていた。
「月光なし。見張り…二時の方向に三、十時の方向、防壁上部に一」
「よし、侵入口は確認済みだな?」
「うん。ここから直進、防壁前の外堀の中に中へ通じる排水溝があるよ」
声を聞く限り、最初の声は男、次が女、最後が少女だと推測できる。
「よし、行くぞ」
三人は見張りの目が別に向いたと見るや、音も立てずに堀の縁まで進み、これまた音を立てぬように静かに入水した。
「ぅぉっ…冷たっ―」
「こら、静かにっ」
「しゃぁねぇだろ、冷たいんだから…」
雲が風に押され、月が顔を覗かせた。月光が辺りを照らしたが、見張りは彼らに気づく気配はない。
「…よし、入るぞ」
少女らしい声の主は口は噤んだまま、男と女は少し口論しながらもその身を水中に沈め、月光が幻想的に照らす堀の中を進むと正面に見えた四角い排水溝に侵入した。
川のような水音のする水路に三人は出た。人が通れるように通路が整備されたトンネルの壁には明かりが灯されており、ここで彼らの姿が確認できた。
三人は水路から横の通路に上がった。
「だぁ〜、割と長かったな…な、ミリィ」
「ああ、だが想定の範囲内だ。上の言うとおり、訓練しておいて良かったろう?ジャン」
「…びちょびちょ…」
「その内乾くって、メグ」
男の名前はジャン。茶色の短髪をばさばさと手でほぐしながら、腰の後ろに携えたナイフの水気を切った。
女はリザードマンで名前はミリィ。
金髪のロングヘアをポニーテールにしている。彼女も腰の剣を抜くと水気を切り、鞘の中に溜まった水を捨てた。
最後に、少女はラージマウスだ。名前はメグという。小柄な体、灰色の髪の毛を可愛らしく右側で束ねてちょんまげを作っていた。
彼女は辺りをきょろきょろと見回していて、いかにもネズミっぽい。
「行くぞ」
「おう」
「うん」
三人は道を知っているかのように右へ左へと通路を進み、やがて立ち止まった。
「ここだな…」
「ああ、俺が先に行く」
「気をつけろよ」
ジャンは梯子を昇っていくと閉じている蓋を軽く押した。蓋は鍵が掛かって折らず、簡単に開いた。
「しめた…」
ジャンは辺りを見回して、誰もいないことを確認すると上に上がった。
そこは石の壁の建物の中で、倉庫のようだった。
「いいぞ、二人とも」
ミリィは跳び上がって降り口の近くに着地した。メグもミリィを真似しようとして跳び上がって着地したが、失敗して転けた。
「イテッ」
「何やってんだよ、バーカ」
「うるさいなっ」
「ふざけている場合か、ここからまだ地下に降りるんだぞ」
「「はーい…」」
ミリィは音を立てないようにドアを開けて、様子を窺った。外の廊下には誰もおらず、容易に進めそうだった。
「よし、行くぞ」
三人は倉庫から出ると廊下を壁側の柱の陰に隠れながら進んだ。
この建物はこの町の中央にある教会の地下だった。なぜこの三人がここに来たのかは追々分かる。
「隠れろっ!」
ミリィの一声でジャンとメグも柱の陰に隠れた。三人の見つめる先には白い鎧の騎士が二人、扉を護っていた。
三人の目的はその先らしい。だがこのままでは見つかり、捕まるのがオチである。
「どうしたものか…」
「おい、誰か来るぞっ」
「見回りの騎士が一人だ」
「それだ…」
ミリィとメグは腕を後ろで縛られ、あの扉の前に騎士に連れてこられた。
「なんだそいつ等は?」
「侵入していたのを見つけた。目的を聞くために尋問するが、それまで牢に入れておく」
「よし、通れ」
騎士と二人はその扉をくぐった。その扉の向こうには下に向かう階段が続いていた。
そう、この先は牢屋になっていて罪の軽いものから浅い階層に投獄される。
「ふぅ、何とかは入れたな」
鎧の兜をとると、顔を見せたのはジャンだった。
「ああ、目指すのは最下層だ。急ぐぞ、あの男が見つかるのも時間の問題だ」
あの男とはこの鎧の持ち主である。三人は物陰からあの近づいてきた見回りの騎士を襲い、気絶させると鎧を剥ぎ取ってジャンが着たのだ。
三人は階段を一階層ずつ慎重に降りた。なぜなら監守が居るかもしれなかったからだ。
だが幸い監守は居なかった。それだけ囚人を逃がさないと言う根拠があったのか、自信過剰の手抜きなのか、どちらにしても今運はこの三人に向いていた。
「…ここが最下層だな…」
「ああ、手分けして捜すぞ…ジャンは右の二列、私は中央、メグは左の一列」
「はぁーい」
三人は別れて誰かを捜し始めた。一体誰を捜しているというのか、こんな所に幽閉されているのを見ると、どんな凶悪な者なのかと身震いせざるを得ないだろう。
「…ったく、顔も知らねぇのにどうやって捜せっつ
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