強がりなトカゲ

 俺は生まれた時から村から少し離れた森の近くに住んでいた。だから、魔物も色々と寄って来るわけだが、みんな良い奴ばかりだ。
 週に数回俺の家にホルスタウロスと銀髪の男の夫婦がミルクを売りに来る。とても旨くて魔物達も俺の家の前で購入していく。毎回思うが、あの金はどこで調達しているのだろうか?

 魔物達が寄ってくる中で、特に昔なじみなのがリザードマンのティオだ。彼女は気の強い奴で昔から、半ば無理矢理剣術の稽古に付き合わされていた。
 申し遅れたが俺の名前はギルス・ヘンパート。髪の毛は母譲りの黒髪で、目は父譲りだ。
 父も母も今は別の所に住んでいる。俺が一人で生活できるようになると、二人とも「気ままに第二の人生を」とか言って南の方に引っ越していった。
 家を譲り受けて、俺は今魔法薬の研究を独学でしている。世の中に出回っている薬の幾つかは俺が発案、調合し、名の通った薬学者が友人にいるので彼を通して流して貰っている。

「おいっ、起きろ!」
 俺の安眠はティオの一声によって妨げられる。いつも。
「…はぁ〜〜あぁ、なんだよ?」
「おい、剣の相手をしろ!」
 おいおい、またかよ…勘弁して欲しいね、こっちは研究で毎日夜更かしだってのに…
「…はぁ、分かったよ」
 そう答えないとしつこいのを知っているから、そう答えて適当に負けるといういつもの流れだ。

 俺は渋々練習用の剣を持って表に出ると、剣を構えて立っている彼女を前にして剣を構えた。
 ただストレート負けしてしまうと、手を抜いていることが彼女にバレて本当に殺されかねない。俺は攻めの体勢も見せつつ、最後には彼女に負けるようにしていた。
 剣の形をした刃のない武器が互いに当たる金属音が幾数回上がり、俺の首元に彼女の持つそれが突きつけられた。
「私の勝ちだな?」
「みりゃわかるだろ?それとも何か?剣の鍛錬しすぎて頭が退化してるのか?」
「ギルス…バカにしているのか?」
「いやいや、滅相もない…」
 俺は首元の冷たい金属を人差し指でどけると、自分の武器を鞘に納めると家の中に入った。

 俺の家には三つの部屋、あとトイレと風呂とキッチン、リビングがあるだけだ。
 部屋の振り当てを言えば、昔から使っていた俺の部屋は寝室、両親の使っていた部屋は物置、そして父の書斎だったところは今や俺の研究兼実験室になっている。
 俺は入り口の横に練習用の剣を立てかけると、昨日あの夫婦から買ったミルクを棚から取り出しテーブルの上に置いた。
「…相変わらず汚い部屋だな…」
「汚かろうが散らかってようが、俺の仕事と生活には何の支障もない」
「…そうか。ところでギルス、腹が減った」
「ああ、そうだな。俺も減った」
 俺は言い捨てるとミルクを一気に飲み干した。何とも言えない甘みと柔らかな喉ごしが最高だ。
 おいしいミルクを飲んで幸せな俺とは対照的に、ティオは不満そうだ。
「…それだけか?」
「ああ、それだけだ」
「…お前、『良かったら食べていかないか』とか気の利いたことは言えんのか!?」
「お前が良かろうと、俺が良くないので言わん」
 ゾクッ…急に寒気が…。この威圧は『本物』を握った感じかな、ガチャって言ったし。俺は椅子から立ち上がって、キッチンへ向かった。
「…はぁ、わかったわかった。作ってやるよ、ついでにな…。だから剣を離せ」
「そうか。お前は本当にいい奴だな」
「そういうお前はホントに嫌な奴だな…」
「何か言ったか?」
「いいえ、なにも…」
 俺は二人分の卵とベーコンを取り出し、二つのフライパンを使って一気に焼き上げた。皿に移し替えて俺は椅子に座って、自分と彼女の前に置いた。
「おぉ、お前が作ったにしては旨そうじゃないか」
 そりゃ卵とベーコンだけだからな、失敗のしようがないぞ。お前みたいに。
 このティオは、以前一度だけ今日と同じ食材を使って『朝飯を作ってやる』と言うから作らせてみたが、…ベーコンは炭と化し、卵は殻が入りまくっていた。
「そりゃどうも」

 ティオは飯を食べ終わってからも俺の家でくつろいでいた。俺は研究室に入って魔草の絞り汁と薬品を色々な配合で混ぜ合わせて、どんな物が出来るのか試みていた。
 するとリビングでくつろいでいたはずのティオがこの部屋に入ってきた。
「毎度のことだが、よくわからんな」
「だろうな」(おまえの頭じゃ)
 俺は横目でティオを見ると…あ、その薬品はダメェェッ!
「こうするのか」
「まてぇぇぇぇっ!」
 二種類の混ざり合った薬品は、緑がかったガスを放出しだした。
「な、なななな、なんだっ!?」
「えぇいっ、やってくれたなっ!」
 俺は薬品を手早くてに取り、その薬品に混ぜた。たちまちガスは浄化され、俺たちは命拾いをした。
 俺はティオをリビングに連れだした。
「なんだ、ギルス?」
「ふぅ…
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