妹彼女 −大晦日ノ乱舞−

 今日は一年の締めくくりの日だ、町の人達は忙しそうにしている。僕は窓の外を眺めながら、瓶に入ったミルクを飲んだ。そして後ろのテーブルの上に置いて二階への階段を上り、自分の部屋にドアを開けた。
「んん…」
 僕のベッドの上には、色白で四肢の細い少女が寝ていた。髪の毛は金色、被った白い布の裾からは、二本の尾が姿を覗かせていた。

 僕が中に足を踏み入れると、尖った耳がピクピクと動いた。
「ん…コーロン、もう起きてたのぉ…?」
 彼女は腕を額に乗せ、右目を薄く開けた。彼女は何も身に着けてはおらず、毛布のめくれ上がった裾から素足を覗かせ、内股に重ねていた。
「ああ」
 僕は素っ気なく返事をした。
「うう、寒いし頭痛い…風邪かなぁ…?」
「…寒いのはお前が今素っ裸で、今日はいつもより冷えるから!頭痛いのは、単なる飲み過ぎだろっ!」
 僕は『飲み過ぎ』の薬を水と一緒に彼女に渡した。彼女は錠を口に放り入れて水で飲み込んだ。
「…全く。昨日寝ようとしてたら、酔ったユウコがいきなり部屋に入ってきて『しよ〜』って言うもんだから、こっちは寝不足だ…」

 昨日の晩、侑狐は酒を飲んで酔っぱらっていた。そして寝ようとしている僕の部屋にフラフラっと入ってきたかと思うと、寝間着を着ようとしていた僕に抱きつき、上着を脱がせて魔力を流し込んだ。
 まあその後はやることをやってしまったわけだ。

「んっふふ…でもコーロンもその気だったじゃない」
 …まあ、なんだその…魔力を流し込まれたせいって言うのは半分だけど、もう半分は、ねぇ…
「…何にしても、まず服を着ろ。ホントに風邪引きますよ?」
 彼女は体に毛布を羽織ると、ベッドから立ち上がった。そして僕の首に腕を回し、僕も毛布にくるまれる形になった。
「もう少しだけ…おやすみぃ」
「―寝るなっ!!」

 僕は褐色のジャケットと今年の誕生日に侑孤から貰った黒いマフラーを巻いて歩いてる。隣には白いタートルネックを着た、『変化の術』で黒髪の人間に化けた侑狐が寄り添っている。
「年の最後だけあって、賑やかね」
「そうだな」
「よーっし、今夜は飲むぞぉ」
「…お前はいつも飲んでるだろうがっ…」
 侑狐は何かにつけて飲むし、つけなくても飲む。要するに飲む。
 町は年明けに向けて盛り上がっていた。出店やパレードが行われて、さながら祭りみたいだ。
「ねぇ、来年の誕生日プレゼント何が良い?」
「はい?年も明けない内から誕生日の話?」
「何か欲しい物ない?」
「ん〜、考えとくよ」
と、僕が言うと侑狐は「うん」と答えた。
「ん…?」
 なんだろう、あれ。僕は路地裏に入るところに『陽炎』の様な物を見た。
「どうしたの?」
「いや、あれ…」
 侑狐も僕の指さした方を向いた。
「何あれ?陽炎?」
 侑狐にも見えているみたいだ。だけど陽炎な訳がない、この寒い時期に、それも、あそこだけに陽炎なんて。
「行ってみましょう」
「え?おい、ユウコっ!」
 侑狐は変なところで好奇心が強い。もう何回『幽霊屋敷』に付き合わされて、その度に『ゴースト退治』になったことか…
 侑狐と僕はその『陽炎』の前に立った。しかしそれはすぐに…
「…消えた」
「なんだったんだ…?」
「さぁ?」
 侑狐は興醒めしたように素っ気なく答えた。そして僕ら二人が後ろを向いて歩き出そうとした時だった。
「何か食べるか」
 僕が歩き出しても返事がない。後ろを振り返るとそこに侑狐の姿は無く、道の上に彼女の靴が残されていた。
「ユウコ…?!」
 僕はその靴の側に跪くと辺りを見回した。
(いない…くそっ)
 侑狐がいなくなるまで、ほんの数秒。物音はしなかった。

(連れ去られたなら抵抗しないわけがない…変化してたって侑狐は魔物、そこらの人間相手になら勝てる…
 自分でどこかに行くとも考えにくい…そうだとすれば…)
 僕は陽炎のあった所を凝視した。ただの路地裏…の奥だ。路地裏の奥に穴がある。
 僕はその穴まで早足で近づくと、穴の中を覗き込んだ。穴の大きさは路地裏の幅いっぱいあって、中はかなり暗かった。
 僕は中に飛び込んだ。上からの微かな光で僕の右側、つまりは町の南西に向かって空間が続いているのが分かる。下には空洞の奥に向かう『何かを引きずった』様な痕が続いていた。
 鎮めると魔力を感じることが出来た。やっぱりこっちか、侑狐の魔力だ。それに他にも違う魔力がある。
 僕は気配を探りながら奥に向かって走った。ひんやりとした空気が辺りに渦巻き、光はとっくに届かない。耳を澄まして風の通るゴォという音が聞こえると言うことは、出口があると言うことだ。

 しばらく走った頃だった。依然として光は見えていなかった。
「えもの…」
「!」
 僕は慌てて立ち止まった。辺りを警戒したが、それはあっと言う間に僕の眼鏡を奪
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