僕は家の鍵を開けて靴を脱いで階段を上がり、自分の部屋の扉を開けると茶色の革鞄をその辺に投げ捨て、学生服の細いネクタイを緩めた。
僕は今年の春に魔術学校に入学して結構良い学生生活を送っている。
魔法学校は将来、騎士や冒険家になりたい人が入る学校。年齢制限は特にないから同じクラスに年下や年上の人もいる。だけどみんな年齢は関係なく仲がいい。
僕の生まれはジパングだけど、今は親魔物領の一つ、クロウーズ領に住んでいる。
僕は椅子に座って、鞄から取り出していたノートを開いた。レポートを書いて明後日までに提出するんだ。レポートは、今日実践した魔法の感想やコツを書くだけなんだけど、何せ量がね…
キィィ…
僕は後ろのとが開くのを感じた。僕の家は一階がリビングキッチンで二階に四つ部屋があって実際に使っているのはここともう一つ隣の部屋。多分このあと僕は後ろから―
「コーロンッ!」
予想通り抱きつかれた。金色の毛と尖った耳が俺の顔の横にあった。
「…ユウコ、見れば分かるだろ?僕は今忙しいんだ…」
ユウコは魔物『稲荷』で僕が七歳の時にウチにやってきた。彼女の親が病で亡くなり、ウチの両親が引き取った。その時彼女は五歳だった。
それから僕とユウコは丸で兄妹のように育ってきたが血のつながりがないことは二人とも当然分かっていた。ちなみに二人の名前は漢字表記にすると僕が『猴龍』、彼女は『侑狐』になる。
元々僕だけが親元を離れて住むつもりだったけど、彼女が我が儘を言って付いてきたんだ。
ユウコは良く僕に後ろから抱きついてくる。ソファーに座っている時、今みたいに椅子に座っている時、本を読んでいる最中…
僕が小さい時に彼女が僕に抱きついて驚かせたのが事の発端だった。それから彼女は僕を驚かせようとして抱きついてくるんだ。
「ねぇ、遊ぼうよコーロン」
「だめだよ。僕は今からこのレポートを片づけないといけないんだから…」
僕は彼女をたしなめた。
「え〜ぇ…じゃあお腹空いた。油揚げの肉詰めと枝豆食べた〜い」
「その『じゃあ』ってなんだ、『じゃあ』って…つーか、油揚げの肉詰めはいいとしてっ、枝豆ってなんだ枝豆って!お前完全に酒飲む気だろっ!」
ユウコは無類の酒好きで今はジパング地方の酒に凝っている。だからそれに合う枝豆を注文したわけだ。人間は二十からだが、魔物は十歳を過ぎれば飲酒は認められている。だから別に飲むなと言う訳じゃないが、限度という物がある。
「ダメ〜?」
「当たり前だろッ!あんたは気付けば一升瓶三本は軽く開けて『後始末』が大変なんだから!」
「だって、コーロンが遊んでくれないんだもん…じゃあお酒の無しかないじゃない?」
「じゃない?じゃないっ!お前は僕と遊ぶかお酒飲むかしかないのかっ!?」
「遊んでよーー、じゃなきゃお酒飲ーみーたーいーっ!」
「子供かっ!」
ほんとに子供みたいにわめいている。もうこうなったら知らん振りしかない。僕が机に向かってペンを持つとユウコはわめくのをやめた。ようやく諦めたか…と思った時だった。
「えいっ!」
「なっ!?」
僕の視界が突然霞んだ。掛けていた眼鏡を取られて僕の視界はとてつもなく抽象的になった。
「遊んでくれないなら眼鏡返さないもんねーッ」
「な、おい」
ユウコは稲荷にしてはお転婆というか我が儘というか。何にしても眼鏡を取り返してレポートを終わらせたい。
「…わかったよ、ユウコ」
「ホントッ?遊んでくれるの?!」
「ああ、向こうを向いて立ってみて」
「何々?新しい遊び?」
僕は彼女と遊ぶ振りをして彼女を後ろ向かせた。ユウコは不思議そうに後ろを向いて、その尻尾を左右に振っている。
僕はそっと彼女を後ろに立つと、彼女に『膝かっくん』をした。
「きゃっ」
彼女はそのままその場に座り込んで、僕は彼女の二本の尾の上に押さえるように座った。
「ひあぁんッ」
彼女は喘ぎを上げて背筋をピンと伸ばして顔を頬を赤くした。
「眼鏡返す?それとも夜までこのままがいい?」
「か、返すからどいて…」
僕は眼鏡を取り上げて彼女の尻尾から立ち上がり、眼鏡を掛けた。視界が戻って僕は溜息をついた。
「まぁ、今度いい奴(酒)買ってきてやるから」
「ホントッ!?わーい、じゃあその時はサカナもよろしくね」
「…わかったわかった…」
僕は手を額に当ててそう言った。稲荷ってこんな魔物だったっけ?違うよな…
その週の休み、僕はユウコに引っ張られて町中に出ていた。彼女は細身のジーンズとヘソ出しで長袖の華美な柄の服を着て、今僕の目の前を上機嫌で歩いている。
僕は彼女の後ろを歩きながら思った。彼女の後ろ姿が大人っぽく、そして色気を漂わせるようになった。幼い頃を知っている僕だからそう思うのかもしれない。
「マスタ
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