一人のオーガが、鼻歌を歌いながら山を下る。
目的は至って単純、男探しである。
「あー、最近は骨のある男がいねーなー。アタシ見ただけで逃げ出す奴ばっかし。
おかげで戦うことも無いから、体が鈍ってしょうがない。
どっかにいい男はー・・・ん?」
山の中腹の少し開けた所に、小屋があった。
それは別段珍しい事ではない。しかし、その小屋があった場所の状況。
小屋の周辺には、よく耕された畑と、管理の行き届いた庭。
そして、それらを囲む柵。
その柵の外は、
尋常じゃない量の、墓があった。
「どういう事だこりゃ・・・70、80・・・いや、三桁いってっか?
それに、全部妙に小奇麗になってやがる。何なんだここ・・・」
墓地の間を通り、この異様な雰囲気の中佇む小屋へと向かう。
畑と庭の具合から、ここに誰か住んでいる事は間違いない。
とりあえず、入り口の戸を開ける。
「おーい! 誰かいるのかー!?」
返事はない。
しかし、小屋の内装は整っており、どう考えても誰かがここに住んでいるはずである。
「・・・留守か? それじゃまた今度・・・」
その時だった。
「ん? 足音がするって事は、誰か来てるのか?」
振り返ると、そこには。
「あれ、珍しいな。お客さん?」
一人の少年が、いた。
茶色の手提げ鞄を揺らしながら、彼はオーガに声をかけた。
「いらっしゃい、かな。こんな辺鄙な所へようこそ」
そう言って柔らかく微笑む少年。
・・・が、この時のオーガはそれどころではなかった。
―――可愛い!!!
(いやいやいやちょっと待てアタシ! アタシにショタコンの趣味はない!
アタシの好みは強くて逞しくて絶倫な男だろ!? こんな10歳になるかならないかの
子供を好きになる訳がない! だけどそれじゃこの気持ちは何!?
一目惚れ? ありえないって絶対! だけどそれ以外にしっくり来る表現が無い!
というかこんな場所で出会った男に1秒で惚れるなんて馬鹿な話があるわけ無い!
え、本当にどういう事!?)
ここまで3秒半。
突然、こみ上げた少年に対する恋愛感情に困惑していた。
すると突然、少年ははっとした顔になった。
「・・・あ、しまった!」
そう言うと少年は即座に鞄を置き、来た道を走り返る。
それを見たオーガの体は、考えるより早く、少年を追いかけていた。
「僕を見ないで下さい! そして離れて下さい!」
「馬鹿言うな! 絶対に逃がさん! そら捕まえた!!」
当然の事ながら、オーガの圧倒的な脚力の前では少年の全力疾走など無意味である。
小屋からさほど遠くない位置で、少年は追いつかれた。
男を捕まえたオーガ。こうなれば、後はやることは一つしかない。
戦いという名の、一方的な陵辱である。
「さぁ、覚悟して・・・」
そのはずだった。
「大人しく・・・!?」
突然、オーガに不思議な感情が湧き上がった。
今まで感じたことの無い、よく分からない感覚。ただ、一つだけ鮮明に分かる事がある。
―――この子を、犯しちゃいけない!
ありえないはずの事である。
常日頃から男を犯すことしか頭に無いオーガが、それを全力で拒絶する。
しかも、実際に徐々に少年を襲いたいという欲求が無くなっていく。
自分でも意味の分からない状況に、オーガはさらに困惑した。
「一体どういう・・・むぐっ!」
突然、オーガの鼻と口に布が当てられる。
すると、オーガに強い眠気が襲い掛かってきた。
「ん、んんあんん・・・(な、何だこれ・・・)」
そのまま、オーガはその場に崩れ落ちた。
これが、二人のファーストコンタクトである。
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