木々が鬱蒼と生い茂る森の奥深く。
深い緑色で形成された植物に囲まれた、少し開けた場所。
月光の下、明るい黄緑色の髪を風に靡かせながら歌う、魔物娘がいた。
「In the forest……you can not even……」
静まり返った森の中、歌声が響き渡る。
月を眺めながら歌謡曲を歌うのが、彼女の睡眠前の習慣。
観客は、近くの木の枝に止まっている小鳥達。
自らの力では大きな音を出すことができない生物だが。
「sing my……」
「お願いします!!!」
「ひゃっ!?」
必要以上に大きい男の声は、小鳥達の羽ばたきで森をざわめかせるには十分だった。
「で、何か言い訳ある?」
いきなり大声を上げて現れた男をツルで拘束し、逆さ吊りにしている彼女の名はシーナ。
この森に古くから住まう、アルラウネである。
一体どんなことをのたまうのかと、男に視線を向けると、
返ってきたのは予想だにしない要求だった。
「そのまま、俺を絞め殺すなり食い殺すなりしてくれ!」
「……はぁ?」
余程血迷ったか、それともふざけているのか。
そのどちらかだと思ったが、シーナは一応、男に話を続けた。
「何を突然死にたがってるのよ」
「情けねぇんだ! 俺のせいで、俺のせいで……!」
「あんたのせいで、何よ?」
「俺のせいで、この森が教団に焼き払われちまうんだ!!!」
「……それ、ちょっと詳しく聞かせなさい」
この森はどこかに続く通り道でもなければ、希少な植物が採れる場所でもない。
そんな所に何故、教団が関わろうとしているのか。
この男がこんな所に来た理由も含めて、聞きたいことが増えた、
拘束はしたままだが、シーナは男を地面に寝かせた。
話を引き出すなら、楽な体勢をとらせた方がいいと判断してのことである。
「俺は、この森で木こりをやってるんだ。この前、教団の連中が来やがってな。
この森に魔物はいるかって、聞いてきたんだ。
ハーピーとかに世話になってるって言ったら、この森を焼き払うと言いやがった!
当然反対した! 俺はこの森と共に生きてるんだ。この森が死んだら、
俺だって死んじまう! なのに、あいつらは魔物を殺すことしか考えてねぇ!
罪に問われるって言っても、下っ端にやらせるからどうでもいいとかほざきやがった!」
「……嘘でしょ? いくら教団でも、森ごとなんて」
「俺だって信じなかったさ! けど、あいつらは本気だ!
その証拠に、俺の家はもう焼かれちまったんだよ!」
「ええっ!?」
「魔物を匿った時点で同罪だ、なんて抜かしてな!
俺だって、あいつらが教団員だって知ってりゃ黙ってた!
あいつら、魔物の保護を騙って来やがったんだよ!」
魔物を駆逐することができれば、人間が死んでも構わない。
遂行することの目的を高くに置き過ぎたが為、狂気に支配された教団員。
彼らの中では、魔物娘を殺すことが他の何より優先されるらしい。
「殺してくれ! 全部、俺のせいだ!
なら、せめてこの森の再生の為の養分になって死にてぇ!
さぁ、好きにしてくれ! ツルで縊り殺すか? 頭から食い殺すか?
溶解液をぶちまけるか? 何でもいい、俺を殺してくれ!」
「ちょっ、ちょっと落ち着きなさい!」
男が殺されたがっている理由は分かった。
しかし、シーナはこの男を殺したいなどとは思っていない。
「あのさ、とりあえず落ち着いて。あんたが殺される必要、どこにもない。
むしろ、それ教えてくれてありがとう。森の仲間と協力して、対策とれるわ」
「無理だ! こんなデカい森、火を点ければ簡単に大火事になる!
お前さんだって植物の魔物だろ? 火が相手じゃ……」
「確かに私は火に弱いわ。けど、イグニスはどう?」
「へ? そりゃ、火の精霊なんだから、強いに決まってんだろ」
「ウンディーネにシルフや、ノームはどう?」
「水ぶちまけたり、風吹かせたり、土で壁作ったりってとこか?
まぁ、いずれにしたって、どうってことねぇと思うが」
「もし、その精霊みんながこの森にいるとしたら、どうなると思う?」
「……マジで?」
自然豊かなこの森は、精霊にとっては格好の居場所であった。
四大元素を司る精霊達にとっては、人間の自然への干渉など、ままごとのレベル。
放火させるどころか、その気になれば近づくことさえさせない。
「適当に知らせておけば、どうにかしてくれるでしょ。
いきなり燃やされたらちょっとヤバかったかもしれないけどね」
「そうか……良かった……この森は、まだ生きてくれるんだな……」
「教えてくれてありがとね。それじゃ……って、家無いんだっけ」
「そんなことはどうでもいい。家はまた建てればいいだけだ。
自然は人間に恵みをもたらしてくれる神様だからな。それに比べりゃ、俺
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