雑踏、ネオン、客引き。
都会の夜は、昼よりも明るく、騒がしい。
「そこの社長! どうすか、いい娘いますよ?」
「前払いだから大丈夫! 本当に大丈夫だから!」
「俺の紹介に任せといて下さいよ!」
これらの声を無視し、ゆっくり、というよりはとぼとぼと歩く、中年の男。
彼の名は萩尾正治。ごく普通の、中間管理職のサラリーマン。
頭髪は耳の周辺を残して禿げ、腹には贅肉でっぷり、表情はクタクタ。
いかにもすぎて逆に珍しい程の、『うだつの上がらないオッサン』の風貌。
夜の街で一遊び、という訳ではない。
単純に、ここを通るのが自宅への最短ルートであるというだけだ。
普段は避けて通っていたが、この日は何となく、この道を選んだ。
「おーじさん♪」
故に、彼女との出会いは偶然だった。
「んもー。こんなカワイコちゃんが声かけたのに、無視するなんてひどーい!」
「美人局としか思えなかったんだ……悪かったよ。
でもいいのかい? こんな安い店で。君ぐらいの年頃なら、
こんなおじさんじゃなくて、若い男の子とおしゃれな店に行きたいものだろう?」
歓楽街の外れにある大衆料理店、その隅のテーブル席にて。
野菜炒め定食を食べる正治の前で、声をかけた女子高生……ダークエルフの涼風ミナモは、
チャーハンと坦々麺(どちらも大盛)を食べながら、口を尖らせる。
無視して行こうとしたところ、腕を掴まれ、引っ張られた。
強引なキャッチだなと思っていたところ、「私、お腹空いてるんだー」と言われ、
なりゆきで食事をごちそうすることとなったのである。
「男のコは好きだけどさー、学校の男子とは、なーんか合わないんだよねー。
あたしを……というか、ダークエルフを軽く見てるっていうか、夢見過ぎってゆーかさ。
いいじゃん、女の子がたくさん食べても、スイーツよりラーメンが好きでも」
「そういうものなのか」
「そういうものなの。……で、おじさん。この後ヒマだったら、ホ別2万でどう?」
水を飲み込むのがあと1秒遅れていたら、盛大に吹き出していたであろう。
タイミング的には、思いっきり咳き込む程度でどうにかなった。
「ちょっ、大丈夫?」
「それはこっちのセリフだよ。おじさんをからかうのもほどほどにしなさい。
おじさんは色々諦めがついてるからいいが、勘違いしたらどうするんだ」
「あたしは本気だよ? てゆーか、さっきのでなんとなく分からない?
あたしは学校の男子にあんまり興味ないの。むしろ、おじさんはド真ん中ストライクだよ?」
「……諦めついてるとは言っても、まだ下半身は元気なんだ。そこまでにしてくれ」
「だったら尚更。ダークエルフの褐色ドスケベボディ、好きにしていいよ?」
「……この辺詳しくないから、場所は適当に探してくれ」
正治の見た目は枯れているが、性欲は若かりし頃と同じくらいには旺盛。
学生離れした豊満な胸の下で腕を組み、その重みを強調されては、
まずい事だと理解してはいるが、本能には逆らえなかった。
「ここ、この前見つけたとこなんだー。身体洗ってくるから待ってて。
あ、おじさんは洗わないでね。そっちの方好きだから」
ラブホテルより安く、入りやすいということで訪れたレンタルルーム。
正治は、頭を抱えた。
(……いい年して何を色気づいてるんだ俺は!)
相手は(少なくとも見た目の上では)自分の娘と言っても違和感ない程には年下。
誘ってきたのは彼女とはいえ、いくらなんでも、常識から逸脱している。
「落ち着け。考えるんだ正治。ここは穏便に済ませるべきだ。
そう、例えばお金はきっちり置いておきながら去るとか、そういう……」
「そういう、何?」
「うおぉっ!?」
思ったより遥かに早く、ミナモは浴室から出ていた。
そして、驚いたのは不意に声をかけられたからではない。
なんと、彼女はこの時点で全裸だった。
健康的かついやらしい、ダークエルフ特有の褐色の肌に、くびれたウエストの曲線美、
そして豊満かつ若々しく突き出た美巨乳を惜しげもなく晒している。
バスタオルでも巻いてくるものだと思っていた正治は、完全に面食らった。
「ちょっ、君! 女の子なんだから慎みを持ちなさい! 大体ね、おじさんのような……」
「どうせやることは決まってるんだから一緒じゃん?
あ、おじさんってバスタオルがはらり……とかにクるタイプだった?」
「いやそういう……って、考えてみればここに来てる時点で、何も言う資格はないか……
悪いね、年をとるとこう、説教臭くなって……」
「気にしないで。けど珍しいね。ヤってから説教し始めるおじさんはよく聞くけど、
ヤる前に説教しようとするおじさんなんて、聞いたことないよ」
「変なプライドこじらせてるだけだ。不快にさせてすまない」
「もー、
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