足音が聞こえる。
曜日も、時間も、いつもと一緒。
遠くに見えるちっちゃな身体も、いつもと一緒。
肌のお手入れは欠かしてないし、髪のケアも入念にした。
8本の尻尾も当然綺麗にしてある。
服も清楚系だけど胸の谷間はしっかり見える物にした。
私の準備は、完璧。
部屋も片付いてる。
秘蔵のコレクションは・・・押し入れに詰め込んだ。
流石にこれを見られる訳にはいかない。
あ、来た来た。
開いてるから入っておいで。
飛脚の代わりにバイクが便りを届け、露天商の代わりにデパートの店員が物を売る時代。
文明の進歩により、人々は神仏の存在を昔ほど気にしなくなった。
しかし、少なくなっただけで、それらの存在を信じる者はいる。
神を絶対的な存在として崇め、未だに前時代的な慣習に固執する者で出来た村もある。
その村では、まことしやかに囁かれている伝承があった。
『山には神が棲んでいる』
誰がその話を始め、どう広まったのかは定かではないが、人々はどういう訳か、
それを信じていた。
「かみさまなんて、いないよ?」
一人の子供が、声を上げる。
根拠は無いが、至極真っ当で、十分想定される可能性。
「この子は悪魔に誑かされた」
「急いで禊をせねば」
無垢な子供の思想は、狂った大人達の前には悪魔じみて見えたらしい。
『山には神が棲んでいる』
その真偽は誰も知らない。
しかし、理由も無しに、この伝承は絶対的なものでなくてはならなかった。
狂っていてもそれが多数派なら、それは正常であり、真実を語る少数派が狂人とみなされる。
故に、この村はあらゆるものが何一つとして、数百年前から変わっていなかった。
神を信じなくなった人々も、言葉の中に『神』という文字を使う時がある。
『神憑り』『神の領域』『神頼み』
そして。
『触らぬ神に、祟りなし』
天然の要塞とも言える地形も相俟って、
外の者がこの村の内情を知る事は無く、逆もまた然りだった。
「神には、貢物をしなければならない」
神は、畏れを生んだ。
「貢物をしなければ、村に災厄が訪れる」
畏れは、恐れを育てた。
「誰かが、神に貢物をしなければならない」
恐れは、強迫観念を創った。
人々の幻が作り上げた神は、非常に気難しく、移り気らしい。
機嫌が良ければ村を守ってくれるが、損ねれば滅ぼしにかかる。
「誰が行く」
「お前が行け」
「死にたくない」
「ならばお前だ」
「ふざけるな」
猫の首に鈴をつけに行こうとする鼠がいないのと同じで、自ら神に立ち向かう者はいない。
自分は安全圏にいたい。その為なら、誰が死んでも知った事ではない。
「あの子を行かせよう」
身勝手な人々は、その責を幼気な子供一人に負わせた。
無垢なままでいられた、彼に。
銭が数十枚、野菜と果物、穀物がいくらか。
麻袋を背負いながら、彼は歩く。
木々が鬱蒼と生い茂る獣道を歩くこと、一と四半刻。
人々はそこを、神の住処とした。
身の丈四尺にも満たない彼には、それはあまりに遠い道のりであり、
着いた頃には脚は酷く震えていた。
そこには神の住処がある。そこに貢物を捧げる。
そうすれば。
(ほめて、もらえる)
親族含め狂気に満ちた人々に囲まれる中、彼は無垢なままに育った。
それ故、彼は神の存在を気にしていなかった。
村の人々が口々に言う『かみさま』とは一体なんなのか。
それに疑問を抱いた。
疑問を抱く事すら、村の人々は許さなかった。
村八分寸前の所で、両親は神への貢物を運ぶ役目を、我が子に負わせた。
そこに、我が子への罪悪感など、微塵も無い。ただ、保身の為に、行動した。
甘言で騙し、厄介払いをするようにして。
一片の愛情も受けずに育った彼は、『ほめてもらいたい』というだけで、
何の意味も無い貢物をここまで運んできた。
人々が作った神の住処。それは祠を作って、奉ったとか、そういう訳では無い。
率直に言ってしまえば、ただの妄言であり、そこには何も無い。
……それでも、おかしくなかった。
偶然にも、そこにはあった。
粗末な造りながら、誰かが住んでいると思しき、一軒の庵が。
もしも神がいるとしたら、救うに値すると判じたのは彼らしい。
その日の夜、彼は村に戻ってきた。
人々は驚いた。まず帰ってこないと思っていたのだから。
「ほめて、くれる?」
少年の心は浮足立っていた。
これで、自分の存在を認めてもらえる。そう確信していた。
だが、両親から帰ってきた答えは。
「今度また行ったら、褒めてやる」
両親は、彼がのたれ死ぬ事を望んでいた。
『我が子は人柱となった。自分の命と引き換えに、村を守った勇敢な息子だ。
彼を可哀想に思うなら、私達の待遇を改めてくれ』
生贄となり、尊
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