港町タリアナ。
その領主の城の近くにある、小さな家。
「ただいま」
「おかえり。メシ、できてるぞ」
「毎日ごめんなさい。僕のワガママを聞いてもらっちゃって」
「何言ってんだよ。ワガママなんかじゃねーって。
それより、今日は大丈夫か? 一応、ちゃんとレシピは見たんだけど」
「見た感じは大丈夫そうですね」
テーブルに並んでいるのは、魚のムニエルにサラダとスープ、ロールパン数個。
ロールパン以外はエトナ作の、シンプルな夕食メニューである。
「味見もした。とりあえず、食える味」
「なら大丈夫ですね。最近、本当に上手くなりましたよね」
「まぁ・・・レシピに沿うことの大切さを身をもって知ったからな。
目分量とかも苦手だし、計量スプーンとか、しっかり使わせてもらってるよ」
「レシピは先人の叡智の結晶ですから」
「昨日はごめんな。あんな謎物体出しちまって・・・」
「いえいえ、そんな・・・」
「本当ですよ。お父様はお母様に甘すぎます。
そんなのだから、お母様が成長しないんですよ」
ここに住んでいるのは、シロとエトナに加え、もう一人。
二人の間に授かった娘・・・母と同じくオーガの、ルファ。
旅を終えてから五年。
娘を加え、三人家族となった一家が、ここで暮らしている。
「それで、いかがですか? 商談の進捗は」
「なんとか、まとまりそう。先方の値引き交渉がかなりしつこかったけど。
この辺は座学じゃどうしようもないし、場数踏んで頑張らないと」
「飛び級で大学入った時点ですげぇのに、まだ頑張るのか」
「当然です。一日でも早くお金を稼げるようになる為に、
領主様に便宜を図って頂いたんですから」
「そんなお父様だから、領主様も便宜を図ったんだと思いますけどね」
二人が次なる住まいをタリアナにすると決め、挨拶に行った際、領主はそれを非常に喜んだ。
どうやら、二人が各都市を旅している間に、シロの背景を知ったらしく、
戸籍等々に関する諸般の手続きを全て、用意すると言ってくれた。
その時に判明したのは、シロは経済学の分野に関する知識が十分にあり、
それは飛び級で大学に行ける程のものだったということ。
これを知った領主は推薦状を書き、シロをタリアナの大学へ編入学させたのである。
なお、現在は大学を卒業し、とある商人の付き人として働いている。
「僕が落ちこぼれたら、領主様の顔に泥を塗ることになります。
ただでさえ無理のある推薦だったのに、その無理を通して頂いて・・・」
「首席で卒業した上、優秀学生への奨学金を貰ったレベルでよく言えますね。
これで謙遜すると、もうそれは慎ましやかではなく、嫌味ですよ?」
「自信持てっての。ルファにもきっちり受け継がれてるんだから」
エトナは、タリアナの軍隊と契約を結び、領主の親衛隊の一人となった。
といっても、常に領主の周辺で警護をしている訳ではなく、少し特殊な形。
有事の際のみ戦いに参加し、それ以外の時は新兵の訓練時の教官として働く。
領主はかつての恩義から、二人に住居と生活費を無条件で渡そうとしていたが、
それを良く思わなかったシロとエトナの希望により、住居は馬車との交換、
生活費は軍から支払われる賃金という形で渡すことに。
現在、三人の生活費は主にエトナによって賄われている。
「サラブレッドですからね、私。一番努力するべきは私ですよ。
こんな最高の両親の遺伝子を受け継いだんです。文武両道、極めてみせますよ」
「ルファ、お父さん恥ずかしいから、そんな簡単に最高とか言わないで」
「何言ってるんですか。私の理想の男性像はお父様ですからね。
お母様が身篭られるか、レスになったら言って下さい。
私がお口や胸で慰めて差し上げますから」
「ちょっ!?」
「おう、やれるもんならやってみろ! 半殺しで勘弁してやるからよ!」
人間と魔物娘から生まれる子供は、全て魔物娘。
その為、必然的に母親の要素の方が遺伝の際には色濃く残るのだが、
二人の娘であるルファは比較的、両者の要素を均等に受け継いだ。
まず、彼女はシロの頭脳とエトナの体力を併せ持っている。
晴れの日は港で、水揚げされた魚の運搬作業で汗を流し、
雨の日は部屋で、読書や勉学に励む。
どちらも、普通のオーガや人間の為せる範囲を大きく逸脱している。
性格はそのまま、エトナとシロを足して2で割ったような感じ。
シロの謙虚さと、エトナの豪胆さがある程度薄まった結果、
丁寧な口調で尊大な物言いをするという、中々面倒なこととなった。
加えて、両親の事は共に尊敬しているが、シロに対してはここ最近、
『父と娘』ではなく『男と女』の関係を望んでいるらしく、
「背徳感のある性行為って・・・最高だと思いませんか?」と言いながら
エトナ譲りの肉感的な体を擦り付けて
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