39.あと一日

「見たこと無いです、こんな肉・・・」
「ヤバイ、涎止まんねぇ」

王都の高級レストランにて。
二人の前にあるのは、300gの分厚いステーキ。
だが、二人はこのステーキに一切のお金を払っていない。

事は数十分前に遡る。



「泊まれませんでしたし、何か美味しいもの食べますか」

高級ホテル宿泊を断念し、別の所で贅沢をしようと考えた結果、
とりあえず、確実に幸せになれそうな選択をした二人。
折角なので、大衆店ではなく、ストレートに高級店に行ってみることにした。

「エトナさんの希望は?」
「肉!」
「えっと・・・何の肉かとか、調理法とかだと?」
「そうだな、ステーキ食いたい」
「となるとレストランですね。ランチメニューでやってる所、となると・・・」

見つけたのは、少し行列が出来ている店。
その最後尾に、二人は並んだ。

「列が出来てるって事は、評判になっているはずです」
「この分ならそんなにかからないだろうしな。待つか」
「ところでエトナさん、テーブルマナーってご存知ですか?」
「・・・知ってるなら、教えてくれ」
「分かりました。まず、ナイフとフォークですが・・・」

待つこと15分。列は進み、入り口近辺に来た時。

「・・・ん?」
「おい、割り込みじゃねーか?」

列の先頭に、横から入り込む男女。
誰かが割り込みをかけたようだ。

「長蛇の列ならまだしも、今の所僕とエトナさんが最後尾なんで、
 あんまり意味ないと思うんですけど」
「2、3人抜かしても大して変わんねぇのに。何やってんだか」
「もう少しですから、このまま待ちましょう」

割り込みを咎めることもなく、そのまま待つこと更に5分。
二人が店内に入った瞬間。

「おめでとうございます、お客様!」
「うわっ!?」
「へっ?」

クラッカーの音と共に、従業員が二人の下へと集まった。

「只今、お客様感謝祭を行っておりまして。
 あなた方が、当店開店から丁度100万組目のお客様です!
 記念と致しまして、今回限り、当店の料理を無料で提供いたします!」
「マジで!?」

全くの偶然。とんでもない幸運が降りかかった。

「特にご希望がございませんでしたら、当店の最高級フルコース
 『History of royal』を提供させて頂きますが、宜しいでしょうか?」
「どうします? 僕はお店の方の仰る通りにした方がいいと思いますが」
「同感だ。こういうのはプロに任せたほうがいい。『餅はどっちだ』って言うし」
「『餅は餅屋』です。一体餅と何が並んでる状況なんですか」
「・・・大福?」
「それもほぼ餅です。ということで、そのコースでお願いします」
「かしこまりました。こちらのお席へどうぞ」

従業員がテーブル席へと二人を案内しようとした、その時。

「おいコラ! 俺達が100万組目だろーがよ!」
「そうよ! そうならそうと店の前に書いておきなさいよ!」

突然、男女二人が怒鳴り声を上げて、従業員に詰め寄った。
両者、着ているものは高価だが、とにかく高い物を寄せ集めただけという感じであり、
センスのかけらも感じられない。

「いえ、お客様方は99万9998組目でございます。
 割り込みをされなければ、100万組目でしたが・・・」
「だったら俺らが100万組ってことじゃねーか! 並んだのは丁度なんだからよ!」
「そうよ! 私達にそのなんとかロイヤルってコース料理持ってきなさいよ!」
「そう仰られましても、入店のタイミングでカウントさせて頂いておりますので・・・」

先程、列の先頭に割り込んだ客。
割り込まずにきちんと並んでいれば、100万組目の客はこの二人だった。

「そもそも店の前に後何人かぐれー書いとけよ! 騙しやがってこの詐欺料理店が!」
「いいからとっとと寄越しなさいよ! それか私達の料金タダにしなさい!」
「お客様、あまり騒がれますと迷惑に・・・」
「お前がちゃんと出すもん出せば黙ってやるよ! バカかテメェ!」
「みみっちい店ね本当! みなさーん! この店は詐欺料理店ですよー!」
「お客様!」

喚き散らす客に困惑する従業員。
この場にいる客がこの二人だけだったら、もう少し長引きそうだったが。

(シロ)
(はい)
(いいか?)
(はい。でも、なるべく傷はつけないようにお願いしますね)
(分かった)

アイコンタクトで、意思疎通を完了。
エトナが二人の前に歩み寄る。



「オイ。黙れ」
「うるせぇ! お前らがいなけりゃ・・・あ゛ぶっ゛!」

素早く腕を取り、関節技をキメる。
完全に肩を持っていかれた男は、苦悶の表情で呻き声を上げた。

「お゛お゛お゛お゛お゛!!!!!」
「もう半分回せば、完全に肩がイカれる。
 選べ。黙ってメシ食ってるか、メシの食えねぇ身体にされるか」
「メ゛ジ
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4 5]
[7]TOP [9]目次
[0]投票 [*]感想[#]メール登録
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33