何もかもを投げ出したくなった。
一体、自分が何をしたと言うんだ。
そこまで思って、結構まずいことをした事に気づく。
「何となく胸騒ぎがしたから急いで戻ってきたら、
まさかこういう意味でだったとはな・・・」
イリスに、犯された。
「・・・えっと」
「しかも面白いくらいよがってくれたんだってな?」
正直、めちゃくちゃ気持ちよかった。
そして、エトナの目の笑っていない笑顔を見て確信した。
(・・・あぁ、これダメなやつだ)
抵抗する気持ちも無くなった。
ここまで来ると、平坦な気持ちで覚悟を決めることができる。
というより、そうする他無い。
「シロ・・・」
「とりあえず、よくやった」
「・・・はい?」
殴られるか犯されるか。
そのどちらかだと思っていたが、返って来たのは、賞賛の言葉。
表情も、普段通りに戻っている。
自分がちゃんと指示を飛ばせていたのは最初だけ。
後はイリスに拘束され、いいようにやられていただけだった。
なのに、一体何をしたというのか。
「いや、僕何もしてませんよ?」
「あー、やっぱり?」
「・・・? あの、ごめんなさい。訳が分かりません」
「それもそうだな。んじゃ、アタシがここに戻ってきた時のことから話すか」
シロが意識を失ってから、今に至るまで。
その空白の時間にあった出来事を、エトナは語り始めた。
「シロー! 戻ったぞー!」
指令室のある建物に戻り、声を上げる。
本来なら、シロの声が返ってくるはずだが。
「お帰り。やっぱり貴方が一番早かったのね」
「っ!? 何でお前がここにいるんだ!?」
出会ったのは、ヴァンパイアの情報屋、イリス。
壁にもたれながら、さも当然のようにいた。
「急いでもらった所悪いけど、破魔蜜くんはあなたを呼んでないわ」
「は? 何言って・・・おい、何でお前がんな事知ってる?」
「当然よ。呼んだの私だもの」
「・・・へ?」
「似てたでしょ、私の声真似。ちょっと仕掛けるから、一旦戻ってきてもらったの」
通信を乗っ取ったイリスは、得意の声帯模写を駆使して、エトナとゲヌア軍に偽情報を流した。
デュークには看破されたが、エトナはここに来るまで、胸騒ぎこそ感じたものの、気づかなかった。
「じきに教団軍が街を挟み撃ちする形で攻め込んでくるわ。そうなったら一巻の終わり。
後衛軍も戻ってこないし、街は壊滅ね」
「ンだと!? テメェ・・・なんつー真似してくれたんだ!」
怒りに任せて、イリスに掴みかかるエトナ。
しかし、その動きは単純過ぎたが故、簡単にかわされる。
「あらあら、怖いわね。そんなに激しくしちゃイヤよ」
「ふざけんな! 散々引っ掻き回した挙句、教団の回し者だ!?
ぶっ殺す! 今この場でぶっ殺してやる!!!」
屋内では、ヴァンパイアの弱点となる日光は射さない。
激昂したエトナの拳は、勢いは普段以上だが、その分正確さは大きく落ちている。
紙一重でかわすことなど、イリスにとっては容易い。
「まぁまぁ、落ち着きなさいって」
「落ち着いてられるか!」
「・・・んもう、しょうがないわね。もう少し遊びたかったけど。
本当のことを言うわ。私が教団の回し者だったのは半年前まで。今は逆よ」
「やっぱり回しも・・・逆? え、つまり・・・?」
エトナの動きが止まる。
教団の回し者の逆。つまり、イリスは教団に加担していない。
「・・・どういうことだ?」
「そのまま。1年前に依頼受けて、半年前までは教団にこの街の情報を流してたの。
軍備の拡張とか、政治情勢とかね。依頼金は確か金貨3000枚だったかしら」
「3000!? どこからんな金持ってきてんだよ!?」
「ヤミ金とかお布施の強要とかじゃない? ま、その辺は私は関与してないからなんとも。
昔の私は、依頼者も依頼内容も選んでなかったからね。お金さえもらえれば、何でもやった。
その結果で、誰が陥れられても知らんぷりしてた。・・・クラックに会うまではね」
クラック。
情報屋のイリスとつながりのある、数少ない男。
シロとエトナの乗った馬車を襲い、撃退された。
その後、食料を分けてもらった礼に、イリスを紹介してくれた。
「私が今ここにいるのも、クラックのおかげ。
そうじゃなかったら、私も教団軍に参加して、虐殺の限りを尽くしてたかもね。
私、魔物娘ではあるけど、当時はそれ以上に金の亡者だったから」
「クラックか。そういや、お前とクラックってどういう関係なんだ?」
『クラックが連れて来たというのなら、それなりに敬意を払うべき相手ということ。』
エトナは、イリスに初めて会った時のことを思い出していた。
二人には、何かしらの深い関係がある。
「そんなに気になるかしら?」
「まだ説明がいるんだよ。お前と教団との
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