34.裏切りの裏切り

何もかもを投げ出したくなった。
一体、自分が何をしたと言うんだ。

そこまで思って、結構まずいことをした事に気づく。

「何となく胸騒ぎがしたから急いで戻ってきたら、
 まさかこういう意味でだったとはな・・・」

イリスに、犯された。

「・・・えっと」
「しかも面白いくらいよがってくれたんだってな?」

正直、めちゃくちゃ気持ちよかった。
そして、エトナの目の笑っていない笑顔を見て確信した。

(・・・あぁ、これダメなやつだ)

抵抗する気持ちも無くなった。
ここまで来ると、平坦な気持ちで覚悟を決めることができる。
というより、そうする他無い。

「シロ・・・」



「とりあえず、よくやった」



「・・・はい?」

殴られるか犯されるか。
そのどちらかだと思っていたが、返って来たのは、賞賛の言葉。
表情も、普段通りに戻っている。

自分がちゃんと指示を飛ばせていたのは最初だけ。
後はイリスに拘束され、いいようにやられていただけだった。
なのに、一体何をしたというのか。

「いや、僕何もしてませんよ?」
「あー、やっぱり?」
「・・・? あの、ごめんなさい。訳が分かりません」
「それもそうだな。んじゃ、アタシがここに戻ってきた時のことから話すか」

シロが意識を失ってから、今に至るまで。
その空白の時間にあった出来事を、エトナは語り始めた。



「シロー! 戻ったぞー!」

指令室のある建物に戻り、声を上げる。
本来なら、シロの声が返ってくるはずだが。

「お帰り。やっぱり貴方が一番早かったのね」
「っ!? 何でお前がここにいるんだ!?」

出会ったのは、ヴァンパイアの情報屋、イリス。
壁にもたれながら、さも当然のようにいた。

「急いでもらった所悪いけど、破魔蜜くんはあなたを呼んでないわ」
「は? 何言って・・・おい、何でお前がんな事知ってる?」
「当然よ。呼んだの私だもの」
「・・・へ?」
「似てたでしょ、私の声真似。ちょっと仕掛けるから、一旦戻ってきてもらったの」

通信を乗っ取ったイリスは、得意の声帯模写を駆使して、エトナとゲヌア軍に偽情報を流した。
デュークには看破されたが、エトナはここに来るまで、胸騒ぎこそ感じたものの、気づかなかった。

「じきに教団軍が街を挟み撃ちする形で攻め込んでくるわ。そうなったら一巻の終わり。
 後衛軍も戻ってこないし、街は壊滅ね」
「ンだと!? テメェ・・・なんつー真似してくれたんだ!」

怒りに任せて、イリスに掴みかかるエトナ。
しかし、その動きは単純過ぎたが故、簡単にかわされる。

「あらあら、怖いわね。そんなに激しくしちゃイヤよ」
「ふざけんな! 散々引っ掻き回した挙句、教団の回し者だ!?
 ぶっ殺す! 今この場でぶっ殺してやる!!!」

屋内では、ヴァンパイアの弱点となる日光は射さない。
激昂したエトナの拳は、勢いは普段以上だが、その分正確さは大きく落ちている。
紙一重でかわすことなど、イリスにとっては容易い。

「まぁまぁ、落ち着きなさいって」
「落ち着いてられるか!」
「・・・んもう、しょうがないわね。もう少し遊びたかったけど。
 本当のことを言うわ。私が教団の回し者だったのは半年前まで。今は逆よ」
「やっぱり回しも・・・逆? え、つまり・・・?」

エトナの動きが止まる。
教団の回し者の逆。つまり、イリスは教団に加担していない。

「・・・どういうことだ?」
「そのまま。1年前に依頼受けて、半年前までは教団にこの街の情報を流してたの。
 軍備の拡張とか、政治情勢とかね。依頼金は確か金貨3000枚だったかしら」
「3000!? どこからんな金持ってきてんだよ!?」
「ヤミ金とかお布施の強要とかじゃない? ま、その辺は私は関与してないからなんとも。
 昔の私は、依頼者も依頼内容も選んでなかったからね。お金さえもらえれば、何でもやった。
 その結果で、誰が陥れられても知らんぷりしてた。・・・クラックに会うまではね」

クラック。
情報屋のイリスとつながりのある、数少ない男。
シロとエトナの乗った馬車を襲い、撃退された。
その後、食料を分けてもらった礼に、イリスを紹介してくれた。

「私が今ここにいるのも、クラックのおかげ。
 そうじゃなかったら、私も教団軍に参加して、虐殺の限りを尽くしてたかもね。
 私、魔物娘ではあるけど、当時はそれ以上に金の亡者だったから」
「クラックか。そういや、お前とクラックってどういう関係なんだ?」

『クラックが連れて来たというのなら、それなりに敬意を払うべき相手ということ。』

エトナは、イリスに初めて会った時のことを思い出していた。
二人には、何かしらの深い関係がある。

「そんなに気になるかしら?」
「まだ説明がいるんだよ。お前と教団との
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