持ち帰った情報を元に、これから予想される展開を脳内で組み立て、
凄まじい勢いでペンを走らす。
次々と、紙面は黒く染まっていった。
「この分なら奇襲はない。あったとして分散してるからまず負けない。
・・・よし。あとは・・・エトナさん」
「いよいよか」
結果として最後の切り札となった、エトナ。
戦闘に移る準備は、既にできている。
「前線に出て、皆さんの援護を。まずは、こちらの人的損害を抑えること。
その問題が無さそうなら、敵の数を可能な限り減らしてください。
そして、最優先事項ですが・・・絶対に、死なないで下さい」
「任せとけ。この戦いの意味は理解してる。
この街だけじゃねぇ。アタシの為、そしてシロの為にも、絶対に生きて帰ってくる」
キラリと、白い歯が光る。
この顔を見せる時のエトナは、自信に満ち溢れており、普段の数倍の力を発揮できることを、
シロは知っている。
「・・・ズルいですよ」
「そうだな。教団の野郎共、来るとは思ってたけど、まさか日付変わんねぇ内に・・・」
「そうじゃなくて。エトナさんです」
「へ?」
「本当は、不安なんですよ。エトナさんが強いことは知ってますけど、今回は規模が規模ですから。
・・・なのに」
握り締めていたペンを置き、こそりと呟くようにして。
「そんな素敵な顔されると、間違いなく元気に戻ってきそうで。
止める理由、無くなっちゃうんですよ」
とだけ言うと、目を細め、苦笑した。
シロが自分に期待してくれている。
その期待は裏切られないと確信している。
なら、それに応えるのが自分の役目だ。
「・・・とうっ!」
「ふにっ!?」
「わしわしー」
「え、エトナさん・・・?」
頭ぽんぽん、くしゃくしゃ。
一頻り、シロの髪型を乱して。
「安心しろ。その予想は大当たりだ」
もう一度、歯を見せた。
こうなれば、結果を出すのみ。
支給されていた、小型の通信機を耳につけ。
「行ってくる」
指令室を後にした。
外へと向かいながら、エトナはシロの言葉を反芻していた。
『そんな素敵な顔されると、間違いなく元気に戻ってきそうで。
止める理由、無くなっちゃうんですよ』
根拠なんて、どこにもない。それは二人とも知っている。
だが、そんなものは必要ない。
(・・・ズルいのはお前の方だろ。
お前がいるだけで、負ける気なんて一切なくなっちまうんだから)
ふつふつと、気持ちが燃え上がってきた。
この戦いにおいて、自分はかつてない力を発揮できる。
「うぉし!」
頬をビシッと叩き、気合を入れて、城門へと歩みを進めた。
「うらぁっ! どりゃあ! せいやぁぁああっ!」
来る敵来る敵を殴り飛ばすデューク。
彼の身体には未だ傷一つないが、溢れ出る汗が疲労を示している。
とにかく、数が多すぎる。
軍隊並みの能力を持っていたとしても、一人は一人。限度はある。
「ハァ・・・ハァ・・・クソッ、腕がイカれちまってる・・・」
鎧を素手で殴り、馬を転ばせ、連打を叩き込む。
そんなことを長時間やっていれば、当然の帰結であった。
「しぶとい野郎め・・・だが、これで終わりだ!」
「クソ・・・うらぁぁぁぁぁぁっ!」
だが、彼はこの街の長であり、疑いの余地なく善人。
そういった人間が苦しむ時、救いの手は必ずやってくる。
「しまっ・・・」
「貰ったァ! 討ち取っ・・・う゛ぇっ!?」
デュークの正拳突きをかわし、首をはねようとした兵士。
しかし、それよりも早く後頭部に強い衝撃を受け、昏倒した。
「・・・ふぅ。何とか間に合ったか」
「エトナ! ・・・悪い、助けられた!」
「とりあえず、一旦離脱しとけ。疲れとかとんでもないことになってるだろ。
再戦はしばらく後。つーか、このまま戦われても邪魔なだけだ」
「なっ・・・うー、悔しいが正論だ。この辺は一旦任せる。
俺が睨んだ限り、敵は歩兵と騎兵だけだ。普通に戦えば勝てる!」
「分かった。それじゃ・・・一暴れしますか!!!」
「頼んだ・・・ぜっ!!!」
互いの右手の平を打ち、バトンタッチ。
史上最強の町長から、格闘戦のスペシャリストへ。
戦力としては申し分ない。
「覚悟しろお前ら! ここから先は一人も通さねぇ!」
今まで戦っていた相手が、体力を全回復させたようなもの。
臆した兵はその場から逃げ、錯乱した兵は無謀な突撃をし、沈められていった。
時間が経つにつれて、じりじりと教団は追い詰められていく。
もう暫くすれば、住民を逃がしている後衛舞台が、闘技場の猛者を連れて戻ってくる。
そうなれば、後は単純作業だ。この戦争は、すぐにケリがつく。
(・・・おかしい)
どう転んでも、負けようのない戦い。
だが、だからこそ彼は、敏感に感じ取っていた。
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