初めに、白昼夢でも見ているのかと思ったが、どうやらこれは紛れもない現実。
次に、自分はまた酔っているのではないかと思ったが、酒を飲んだ記憶は無い。
その他、あらゆる可能性を想定したが、その全てが否定されて、結論が確定する。
「・・・・・・・・・・」
ありえるはずのないもの。
「お・・・お帰りなさいませっ、ご主人様ッ!」
フリルだらけのエプロンドレスに、黒のスカートとニーハイソックス。
頭には猫耳までついたフリフリのヘッドドレス。
恐らく史上初となる、オーガのメイドが、そこにいた。
「・・・頼むから何か言ってくれ!」
「何を言えばいいんですかとりあえずすごく可愛いですごめんなさい!」
「ありがとうだけど何で謝ったんだあとこっ恥ずかしい!!」
「分かりませんよそんなの! これどういうことですか!?」
両者、どのテンションで何を言えばいいのか分からない。
シロは、目の前に存在するのが本当にエトナなのかという衝撃、
エトナは、自分で決めたには決めたが、実際にやるとなると予想以上だった羞恥で、
まともに落ち着く術を失くし、事態の収拾には結構な時間を要した。
「・・・これが、それの中身」
「ある意味大当たりですね。・・・投げ売りされていたのは、サイズの問題でしょうか」
最後に残った、大きな福袋の中身。
まさかまさかの、メイドコスプレセット一式(LLサイズ)であった。
「シロが好きかどうかは分からなかったけど、折角だしと思って」
「完全にコスプレ専用の衣装ですね・・・色々と」
メイド服は元々、貴族の使いの者に着せられる服であったが、
その可憐さから飲食店を始めとする様々な場所に広まってゆき、このようにして
コスプレ用の衣装まで販売されるようになっている。
故に、初めから給仕ではなく、『そういった』行為の為に作られているものも多く、
エトナが着ているのもそれ仕様。具体的には、丁度胸の辺りの生地がハート形に切られており、
深い谷間が露出する格好となっている。
他、ヘッドドレスにもこもこした黒いネコミミがついていたりと、
本来の用途からは大きくかけ離れたものであろう事は想像に難くない。
「その・・・どう、だ? その・・・うん、似合ってないと思うけど・・・」
「・・・えっと」
落ち着いたところで、ゆっくりと全体像を確認する。
普段の露出度の高い格好とは逆に、布地の多いワンピース型のエプロンドレス。
黒と白のコントラストが長身で映え、どこか幻想的な雰囲気を醸し出す。
軽く体を締め付けるコルセットは、上部が丁度胸の下に当たり、
只でさえ扇情的な、ハート形の穴から覗く谷間をより強調している。
フリルだらけのスカートの下には真っ黒なニーハイソックス。
エトナの美脚にぴったりと張り付き、綺麗にシルエットを映し出す。
そして、スカートとソックスの間に存在する、僅かに露出した太腿。
ほんの少しだけ、という所が禁欲的な中に微かに存在する色香を最大限に魅せ、
男心を擽り倒す至上の絶対領域を生み出した。
よく見れば、両手には肘までを覆うロングの手袋がはめられている。
こちらは神々しささえ感じる程に真っ白。恥ずかしげに絡ませた指先がいじらしい。
極めつけは頭のネコミミ付きカチューシャ。
角で若干隠れてはいるものの、逆にそれが絶妙なぽんこつ加減であり、可愛い。
確かに、本来オーガとメイド服というものは、親和性など全くないはずであったが、
実際にこうしてみると、アリかナシかで言うなら。
「・・・これ、割とアリです」
オーガの美しさと、メイド服の可愛らしさ。
意外にも、その組み合わせは奇跡的に噛み合った。
「エトナさんって普段はカッコいいですけど、本当はこんなに可愛いんですね」
「・・・マジで?」
「はい。よくよく見てみると、中々どうして魅力的に」
「いや、本当に考えてみろ? アタシはオーガ。鬼だぞ? 鬼がメイドっておかしいだろ?」
「でも、こんなに可愛いんですし、仕方ないですよ。可愛いは正義です。
こうして思い出すとドキッとしますね。『お帰りなさいませ、ご主じ・・・」
「言うな! それ勢いで言っちゃったけど今最ッ高に忘れたい記憶リストに入ってるから!」
勢いとは恐ろしいものであり、普段ありえない事をやらかしたりする。
この衣装を見て、『着よう』と思った辺りでもうすでにおかしいのだが、
何故か、この日のエトナはそういう気分だった。
そして、勢いがあるという事は、同時に何らかの流れが存在するという事を意味する。
流れも侮れるものではない。一度流れに乗ってしまえば、それを止めるのは困難な場合が多い。
『カッコいい』ならそれなりに言われた事があるし、多少自覚もしている。
だが、エトナは基本、『可愛い』と言われる事に
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5 6]
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録