「うおぉっ!?」
くりくりとした、どでかい目。
この日、トモルが起床して最初に見たものであった。
よく知っている目ではあるが、このタイミングで現れるとは
思っていなかった。
「・・・おはよう・・・♪」
「あーうん、おはようさん」
驚かれたことを全く意に介さず、ゆっくりまったり、かつ楽しげに
朝の挨拶をする彼女は、一つ目の魔物娘、サイクロプスのミキ。
布団越しにトモルの体の上に乗り、楽しそうに笑っている。
「朝だから・・・起きよう」
「分かったからどいてくれ。重い゛ッ!?」
「・・・乙女に重い、禁句」
頭突きを一発。
不機嫌な表情になりながらも、ミキはトモルから下りた。
人間と魔物娘が共存するようになり早数年。
未だ完全に浸透した訳ではないが、それでもそれなりには
魔物娘の存在が認知されつつあった。
『屈しない! 魔物などには絶対に屈しない!』と言っていた某国の首相が
『おっぱいには勝てなかったよ・・・』と言っていたのは記憶に新しい所である。
それより、ここ暫くの問題は市民層の方が多い。
特にサイクロプスのような、魔物らしい特徴をはっきりと持った魔物娘は
中々受け入れ難いというのが現状であり、迫害じみた行為も
依然として存在している。
「はよーッス」
「おはよう」
「よーおはよう。お二人さん、今日も一緒に登校ですかい? お熱い事で」
「うん、一緒」
「バーカ。そんなんじゃねーっての」
囃し立てる友人のケンヤ。それに対して満更でもないミキと、定型的な否定をするトモル。
二人の通う学校は、2年前から魔物娘と人間の共学校になり、校内には多くの
魔物娘が存在している。
この共学化はここ3年程の間に急速に進行しており、現在では全国に存在する学校の内
約6割程度が共学となっている。
余談だが、この頃ラミアやケンタウロス用の椅子、ハーピー用の文具等、魔物娘専用の
道具の需要が高まり、経済がかなり活性化。
報道各社は連日『魔物特需』として、様々な製品を紹介していたりした。
「あっそうだ。今日国語の小テストあるらしいぞ」
「マジ!? 範囲どこよ?」
「漢字辞典の23ページから26ページまで。3時間目だから急げよ」
「うわやっべ! 全然やってねぇよ!」
「トモル、勉強はちゃんとしよ」
「うるせぇ! 俺は今を精一杯生きるのに必死でそんなのやってられねぇんだよ!」
「クリアしたゲームのレベル上げを徹夜でする事が、精一杯生きてるとは思えない」
「ちくしょう! ボーっとしてそうに見えて毎回上の下くらいキープしやがって!」
ミキは授業と勉強時間だけ思い切り集中し、それ以外の時間はゆっくりと休む効率重視のタイプ。
トモルは・・・詳細を説明するのは避けておく。
「ミキ、頼むから教えてくれ!」
「漢字じゃ教えようがない」
「何でもいいから教えてくれ! すぐに覚えられる方法とか!」
「とにかく書く」
「まどろっこしい! もっと楽な方法で!」
「あきらめたらいいと思う」
「ド正論! うわー! 追試受けたくねーっ!」
テスト前のお決まりのやりとりをしている内に、担任教師がやって来て、
朝の会が始まる。
これが、彼らの日常である。
(眠ぃ・・・マジ眠ぃ・・・)
3時間目、小テスト。
見事に、夜更かしが響いた。
結局まともに勉強できる訳も無く、回答は適当に埋めただけ。
トモルは追試への片道切符となった答案用紙を力なく提出することとなった。
「・・・♪」
ミキは今回も上々の模様。
回答の見直しも終え、微笑みながら答案用紙を出した。
「よし、全員揃ったな。んじゃ、授業続けるぞ」
「あ゛ー、追試ヤダなー。・・・っと?」
ミキの席は、トモルの席から左に4つ、前に1つ。
はっきりと、確認できた。
(あいつ、またやられてるな・・・)
後ろの席の男子が、コンパスの針でミキの腕を突いていた。
当の本人は全く意に介していないようだが、男子生徒の方は
教師の死角になっている事をいいことに、執拗に針で刺し続ける。
ミキは所謂、いじめに遭っていた。
大らかな性格の彼女は殆ど気にしていないように見えるが、本当はそれなりに
傷ついている事をトモルは知っている。
(高校生にもなって何やってんだか。後で根回し、しときますか)
この状況をどうにかしようと、トモルは日頃から人脈を作っている。
いじめ問題に詳しい教師や、グループの中核にいる上級生、部活の後輩等。
彼は勉強は出来ないが、こういう事には頭が回るのだ。
(にしても、どうにかならねぇかな。結局今んとこ対処療法だし。
・・・おっ、『対処療法』ってインテリっぽくね?)
「トモルー! 聞いてるかー!?」
「えっ、はい?」
「筆者の主張はどこから始まったか、分かるよな?」
「えっ、その・・・
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