「あー・・・いくらかマシになった」
「無理はしないで下さいよ? 買い物位なら一人でも大丈夫ですから」
一晩中激しく交わった結果、とてつもない腰痛に苛まれる事になったエトナ。
シロに湿布を貼ってもらい、昼まで安静にした所、歩けるレベルには回復した。
「市場で探しましょう。腰に効くもの。確か東洋で用いられている『お灸』というものが
いいそうです」
「そうする・・・いてて・・・」
シロに体を支えてもらいながら、ゆっくりと歩く。
その不自然極まりない光景を見た誰もが、『えっ?』という表情を浮かべた。
ノノン中央市場にて。
ベング商会摘発事件の影響もあり、辺りの騒がしさは一層強まっている。
「多少高くついてもいいからスピード優先だ! 発注できるだけしとけ!」
「ここチャンスかピンチか分岐点! 遅れるなよ!」
「今後の情勢はベングが無いとなるとあの商会が多分・・・」
「うぉっ、何だこりゃ」
「最大規模の商会が潰れたとなれば色々な変化が起きますから。皆さん大忙しですね」
実は、この時多くの店が臨時休業をとっており、開店している店の数は多くない。
現状、多くの商人はいつも通り商売をするより、何かしらの勝負に出た方がいいと考えた。
堅実かつ地道な積み重ねが富に繋がる事は百も承知。しかし、この機を逃す訳にはいかない。
己の商人人生を賭け、一獲千金を目指す為に、大博打に打って出たのである。
「個々の儲けも大事ですけど、街全体の利益も忘れないで頂きたいですね。
争い合いになって共倒れとかになったら洒落になりませんし」
「よく分からんが、商売でもってきた街なんだし、何とかなるだろ。
・・・ん? おいシロ、あれ」
そう言いながらエトナが視線を向けた先。丁度、ジェフが露店を開いていた辺り。
この日も店は開いていた。しかし、当の本人はいない。
その代わりにいたのは。
「いらっしゃいま・・・あ、シロさん」
ベング商会に囚われていた魔物娘の一人、コカトリスのリノアだった。
シロに会うなり表情がぱぁっと明るくなり、柔らかく微笑む。
臆病な性格がそのまま表れたかのような下がり眉はそのまま。しかしそれがまた可愛らしく、
多くの商人が看板娘として欲しがるレベルにまで達している。
「その節は、本当にありがとうございました」
深々と座礼。
「いえいえ、お礼ならエトナさんにして下さいよ。僕は何も出来ませんでしたから」
「シロさんは私に勇気をくれたじゃないですか。でも、エトナさんにも感謝しなくちゃですね。
ありがとうございました」
「ん、気にすんな。そして頭上げてくれ。何かアタシが脅しでもしたのかみたいな視線が痛い」
身体の大きさ、種族としての力量差。
土下座と呼べる程に頭を下げているコカトリスの前にオーガ。
事情を知らないのであれば、勘違いされるのも自然な事であった。
「あ・・・ごめんなさい」
「大丈夫大丈夫。仕方ねぇよ。それより、何でここにいるんだ?」
「そうでした。二人にお伝えしたい事があるんですよ。
少し、お時間頂けますか?」
「僕は構いませんよ。エトナさんは?」
「アタシも問題なし。んじゃ、聞かせてくれ」
「ありがとうございます。まず、私がここにいる理由ですが・・・」
事は昨夜に遡る。
「・・・どうしようかな」
重要参考人としての役目を終えた後、リノアは困っていた。
気付いた時にはベング商会に捕まり、囚われていた為、自分の元の住処の方向が分からない。
初めて訪れた街に知り合いがいる訳もなく、途方に暮れていた。
「とりあえず、近くの森に行くしかないかな。まず水場を見つけないと」
「おーい!」
「はひいぃっ!?」
誰かが自分を呼ぶ声に驚き、素っ頓狂な声を上げる。
恐る恐る振り向いた先にいたのは。
「よ、嬢ちゃんお疲れ。俺は露店商をやってるジェフって言う。
シロとエトナの・・・一応、知り合いっちゃあ知り合いだ」
露店商店主、ジェフ。
彼もまた、ベング商会の被害者として、衛兵に様々な証言をしていた。
「シロさんのお知り合い・・・ですか?」
「客と商人ってだけだけど、色々あってな。それより嬢ちゃん、突然だが、頼みがあるんだ」
「はい・・・?」
ジェフもまた、一つの問題を抱えていた。
どうにかできる手段はある。だが、その方法は選びたくない。
「しばらくの間、俺の代わりに露店を開いて欲しいんだ」
話によると。
自分はエトナとシロの乗る馬車に盗みに入ったが、エトナに捕まった。
未遂であるとはいえ、れっきとした犯罪であり、この罪を償わなければならない。
エトナは別に気にしていないようだが、自分は自首するつもりだ。
だが、その間に自分の店を誰かに任せたい。といっても、商会の仲間に迷惑はかけられないし、
妻には
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4]
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録