街が茜色に染まる空に包まれる頃。
かねてより黒い噂が絶えなかったベング商会に、ついに捜査の手が入った。
大勢の衛兵と、一人の魔物娘。
商会の地下には、囚われの少年。
その少年の持つ、『破魔蜜』。
教団が金貨一万枚を支払ってでも欲する、あらゆる魔物娘を呼び寄せる能力。
その力が、解放された。
「・・・!?」
ベング商会1階西。
エトナの予測は、見事に当たっていた。
丁度、走っていた所の下辺りに、シロが閉じ込められている特別地下牢が存在する。
そして、破魔蜜の効果範囲にも、きっちり入っていた。
(なんだこれ・・・何か・・・何だ・・・?)
頭を抱え、その場に崩れ落ちる。
しかし、その時エトナの頭に一瞬の閃きがよぎった。
(足元の感覚・・・空洞・・・地下・・・? ここか!?)
「どうされました!?」
悩む余裕は無かった。
衛兵が駆け寄る中、エトナは力を振り絞り、拳を振り上げ。
「・・・だぁぁぁぁぁあああああっっっっっ!!!!!」
勢いよく、床に叩きつけた。
「ちょっ、返してくだっ!」
「黙れ小僧。小賢しいもんぶら下げやがって」
特別地下牢に入ってきた男。
当然、ベング商会の人間である。
お守りを燃やされ、戸惑うシロの頬をはたき、吐き捨てるように呟く。
そのまま扉を開け、シロを連れ出した。
「ほら来い。お披露目だ。会長がお前の能力を確かめるんだとよ。
・・・ったく、こんなガキの使いを何で俺が」
暗い廊下に出て、そのままシロの腕を引っ張る。
いきなりの、それも全くもって想定外の状況の変化に、普段は冷静なシロもついていけない。
(どうなるんだ!? 僕の能力の効果は!? いや、それよりお披露目? えっ!?)
混乱している内に、階段を上り、出たのは1階。
そこには、立派な顎髭を蓄えた壮年の男がいた。
「・・・ちぃっ!」
シロが連れ出されたのと時を同じくして。
凄まじい轟音と共に、エトナは床を破壊。
落下地点は丁度、シロが先程まで捉えられていた特別地下牢だった。
破壊した範囲は、エトナを中心に半径2m強の円を描くような形。
周囲にいた衛兵は何とか足から着地したものの、突然の出来事に怒鳴った。
「おい! 何してくれてんだ!」
「遅れた・・・シロはあっちだ!」
「は?」
「匂いだよ! あっちにシロがいる!」
それを全く意に介せず、エトナは走り出す。
衛兵たちは訳も分からず、その場に呆然と立ち尽くした。
(待ってろシロ! 今助ける!)
「ほほぉ・・・これが教団の言う破魔蜜君か。中々の美少年じゃないか。
本来の用途以外でも、好事家に貸し出せばさらに儲けられそうだ。嬉しい誤算だよ」
耳に汚泥を流し込まれたかのように錯覚するほど、その声はねっとりとしていた。
華美な装飾品や衣服で身を包んではいるが、心の有様をそのまま表したかのように醜く、
『金の亡者』等というありふれた言い回しでは到底足りぬ、欲望にまみれた男。
それがベング商会現会長、モンツ・サンテグラルだった。
「だが、ただ貸すだけでは勿体ないな。少々味見しても良さそうだ。
事によっては、私のコレクションに加えるという事も・・・うふふふふふ」
まるで口から肥溜めか何かを垂れ流しているような笑い。
どこまでも下卑た輩である事が容易に分かる。
「おやおや、どうしてそんなに体を固くしているのかね?
君ならランクSも夢じゃない。食事は毎日1回とれるし、私の相手をするのも2時間まで。
薬物投与も出来るだけ抑えるし、何よりいつまでも私の寵愛を受けられる。
コレクションとしてはこれ以上ない待遇を約束するぞ?」
狂っている。
百人が百人、そう思うだろう。
これが、ありとあらゆる欲望にまみれ、その結果歪みきった思想を持つ事になった人間。
いや、『人間の皮を被った何か』の姿である。
目まぐるしく変化する状況とは別の要因で思考が遅くなったシロだが、
それでも何とか、ベング商会会長モンツ・サンテグラルという男の人物像の分析にこぎつけた。
(親魔物家でも反魔物家でもない。とにかく優先すべきは自分の欲望。
それを満たす為ならどんな手段でも使う。例え、世界と引き換えだとしても。
・・・でも、ずっとそんな事をしても捕まらなかったんだ。そう考えると、
ただの金の亡者とは違う。恐らく、相当に頭も切れる。
・・・まずいな。こういうタイプは危機管理能力が高い。
事と次第では、僕をあっさり殺すことだって有り得る。下手に動けない)
その結果分かったのは、今、自分は間違いなく窮地に立たされている事だった。
(なら・・・今回僕が出来る事は何も無い。信じるしかないんだ。
衛兵のみなさんと、リノアさんと・・・エトナさんを)
どう転ぶか、予想す
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