青い空、白い雲。そして青い海に、漁船でごった返す港。
その波止場に釣り糸を垂らし、水面を凝視する男が一人。
かれこれ3時間、その体勢に動きは無い。
「釣れねぇなー・・・」
本日何度目の呟きだろうか。
朝から釣りをしているこの男、もう大分時間が経過しているが、一向に釣れる気配が無い。
この港町で小さな釣具店を営んでいる彼のごく一般的な休日の風景である。
店で売れ残ったまま古くなった釣竿と桶を持ち込み、知り合いの漁師から適当な餌を貰って、
釣りをする。
そして、何も釣れることなく帰宅…かれこれそんな休日が2年間続いている。
釣り人に必要な忍耐力は十分なのだが、彼は運と技術に恵まれていなかった。
未だ何一つ入ったことの無い桶を見ながら、これもまた何度目か分からないため息をついた。
「釣れねぇなー・・・腹減った」
一旦家に戻ろうと、糸を巻き上げたその時だった。
突然、釣竿が音を立ててしなり、手に感じたことの無い重量感が来た。
「来た! おし、外れんじゃねーぞ!?」
一気に糸を巻き上げる。
不思議と、重量感に対して驚くほどリールは軽かった。
瞬く間に獲物は水面へと上がり・・・
「何か、申し開きは?」
「面目次第もございません」
釣具店、その奥の居間。
そこには、画家を呼んで描かせたくなる様な素晴らしく模範的な土下座を披露している男と、
その対面、8本の足を器用に揃えて座るスキュラという、何とも珍妙な光景が展開されていた。
そう。彼が釣り上げたのは、このスキュラだった。
よく見ると、脚に一箇所だけ釣り針が刺さった所と思しき跡がある。
「全く・・・何でアタシを魚なんかと間違えるのよ」
「海中の事なんて分からねぇしそもそもそんだけ脚あるんだから1本くらい痛い痛い吸盤をデコにやるなやらないで下さい剥がれる剥がれる」
反論する度にペチペチと額に吸盤を貼られたり剥がされたりして、その痛みに耐えかね土下座の体勢に戻り謝りまくるという、ここに来てから4回目になる一連の流れである。
「まぁいいわ。これからは気をつけることね」
「あんたもなってうん俺が悪かったから待てそこはシャレにならん痛痛痛痛痛ッ!!!!!」
5回目。どこに吸盤が貼り付けられたかは、ご想像にお任せする。
それから2週間後。
いつも通り、波止場で釣りをする彼。
この日は何故か、今までの憂さを晴らすかのように、当たりの連続だった。
開始30分にして、桶は既に満杯である。
「今日のメシは魚のフルコースになるなー♪ おっとまたキタァ!」
本日何度目か分からない当たり。
一気に竿を引き上げ・・・
「で、またアタシを釣ったと」
「仰るとおりでございます」
2週間前と、全く同じ光景が出来上がった。
「学習能力持ちなさいよねー。子供じゃないんだから」
「アンタも同じ針に2回引っかかる辺り相当痛い痛い脳味噌出ちゃうやめて」
この一連の流れ含め、寸分違わず2週間前と同じである。
「それにしても、今回はよく釣れたわね」
「お前が釣れなきゃ多分もっと行けただから待てそこは無理だからあだだだだだ!!!!!」
どこに吸盤が貼り付けられたか?
2週間前の最後の時と同じ、とだけ言っておこう。
さらに2週間後。
この日は今まで通り、全く釣れる気配がなかった。
釣り糸は垂らしたきり、微動だにしない。
「くそ・・・やっぱ昨日のは偶然か・・・」
しかめっ面で当たりを待つこと数十分。
ようやく、待望の当たり、到来である。
「はい来た! 何が釣れるかなーっと!」
勢いよく、糸を巻き上げ・・・
「何、アタシに何か恨みでもあるの?」
「滅相もございません」
正直なところ、もう既に双方何となく感づいていたようである。
「引っかかるアタシもアタシだけどさー、あんたもどうにかしなさいよ」
「一体俺がどうしろと痛い痛い分かった善処するからやめれ」
そして続く吸盤攻撃。ここまで前回、前々回と一緒である。
…が、この日はこの後が違っていた。
「流石に心の広いアタシでもね、3度目となるとそろそろ堪忍袋が大変なのよ」
「広い以前に心というものが存在するかどうかすら怪しい待った待っただからそこは・・・うん?」
吸盤が来ると予測して、手を当てた箇所に、スキュラの腰。
そしていつの間にか、背後に回って絡み付いている、8本の脚。
「・・・だからね、償ってもらうわ」
「ちょっと待て、色々おかしい」
「3回目で気づいたんだけどさ、アンタって結構アタシ好みの顔してるのよねー♪」
「うんありがとう。だからちょっと離してくれないか」
「丁度子作りの相手探してた所だし、ね?」
「ね? じゃないです。胸を押し当てないで下さいそうすると俺の竿が大変な事に」
「安心して。吸盤って痛くする
[3]
次へ
[7]
TOP[0]
投票 [*]
感想