11.そうじゃなくて。

胸の辺りに違和感を感じ、眠りから覚めたエトナ。
シロが無意識にエトナの胸を揉み始めてから数分後の事である。

(・・・シロ?)

薄く目を開けてみる。気付く様子は無い。
シロの表情がどこかおかしかったが、恐らく寝惚けている為だろう。

両手の指を沈ませ、柔らかさを確かめるように揉む。
たどたどしい手付きで、まるで何かに操られているかのようだった。

(今何時だろ。暗いからまだ夜か? 変な時間に起きたな、シロ。
 さて、どうしようか)

優しく、しかし一心不乱にエトナの胸を揉み続けるシロ。
それを暫く見ている内に、エトナは何となく、シロが何かを求めているように感じた。

シロが求めているものがあるとすれば、それは。

(・・・愛情?)

初めて出会った時の事を思い出す。
金で売られるという仕打ちを受けたにもかかわらず、シロは両親を憎んでいなかった。

タリアナで、シロは乳飲み子のように自分の胸を吸い続けた。
ロコで、自分がどれだけ危険にさらされていたかに気付き、泣きじゃくった。

なんとなく、答えが見えた。

(本能が、求め始めたってとこか?)

自分と出会い、一緒に時を過ごすにつれ、欲しくなったのだろう。
―――今まで全く与えられなかった、『愛情』が。

(・・・そっか。強ち、やり過ぎでもなかったのかもな)

風呂場での出来事。
正しい事だったとは言えないが、全くもって間違いだったという訳でもない。
そう考えたら、気持ちが幾分か楽になった。

(アタシの思い込みだとは思うけど。無理矢理されるのは嫌だったろうし。
 んじゃ決まり。起きたらそこを謝る。理由言えば、分かってくれるだろ。
 その上で、シロを抱っこしていつも通りに。多分、それが一番いい。
 もし、本気で嫌がってたんだとしたら・・・謝り倒すしかねぇや)

考えの整理がついた。やるべき事もはっきりした。
なら、今やる事は。

(シロが気付くまで、見守ってますか。・・・にしても、ホント可愛いな)



それから15分。

「おはようシロ。何してんだー?」

エトナが起きていた事に気付き、シロの手が止まった。

(さて、どうなるかなー?)

寝たふりをするという選択肢もあった。
しかし、シロの反応を見たいという悪戯心が、見守るという大義名分の下、正当化された。

(・・・・・・・・・・・・・・・)

ぱち、ぱちりと、瞬きを二回。
数秒、エトナの目を見つめ。

「・・・ぁ」

声と定義するには細すぎる、吐息が漏れて。

(・・・ん?)
「ぁぁぅっ、ひゃっ、はっ」

目に涙が浮かび。

(・・・アレ?)
「はひっ、あっ、ひひゃっ」

次第に、嗚咽のような声が出て。

(あっ、これまずい)
「はぅっ、うっ、うあ、うああああああああああん!!!!!!!!!!」

顔をぐちゃぐちゃにして、大きく泣き出した。

「えっ、ちょっ、シロ?」
「うあああああああああああああああん!!!!!!!!!!
 うぇっ、うあああああん!!!!!!!!! うああああああああん!!!!!!!!!!!」

シーツに顔を埋め、尋常じゃない様子で泣き叫ぶシロ。
あっと言う間に、シーツが涙と鼻水と唾液でびしょ濡れになった。

「えーっと、とりあえず落ち着け、な? なんか分かんないけど、落ち着こう?」
「ぅぅぅぅぅぁんっ! ぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」

うつ伏せになっている為、声はベッドに吸収され、他の部屋からの苦情の心配は無い。
しかし、そんな事等気にならないほど、明らかにシロは常軌を逸している状態だった。

「ほら、あの・・・えっと・・・?」

シーツを掴みながら、シロは泣き続けている。
エトナはどうすればいいか分からず、困惑しながらも、
シロの背中を摩るという行為を選び、落ち着くのを待った。



それから半刻。
シロはまだ泣いているが、声は小さくなった。

「ううぅぅっ、うっ、ううううっ・・・」
「うん、うん。よく分かんないが大丈夫。どうしたんだー?」

エトナが摩っている部分は温かいを通り越して、低温火傷の可能性があるくらいの熱を帯び始めた。
それだけ長い間、シロは泣き続けていた。

「うううっ・・・うぅ・・・」
「お疲れ。大丈夫か、シロ?」

体力の限界に達したのだろう。シロの泣き声が遂に止まった。
そして、暫くすると。

「・・・スー・・・スー・・・」
「おいっ!?」

そのまま眠った。



「・・・んっ・・・? んあああぁっ・・・」

翌朝。
大きなあくびをしながら起きたシロ。
まず、時刻を確認する。

「・・・8時半・・・はちっ!?」

バッと、時計に飛びつく。
何度確認しても、短針は8と9の間にあった。

「えっ、何で?」
「そりゃあんだけ泣き疲れたらぐっすりだろ」
「あっ、エトナさ・・・」

シロが
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