宿場町ロコから北東に向かう二人。
その馬車の中で、エトナはシロに正拳突きの仕方を教えていた。
「シロの年だと、筋力より技術的な事鍛えた方いいんだよ。
筋トレは、今やると体の成長を妨げちまうんだ」
「そうなんですか。エトナさん、色々ご存じなんですね」
「オーガなら、知ってて当たり前だけどな。戦いの事とかは親に叩きこまれたんだ。
・・・おっ、今のいいな。下半身が安定すれば、もっと良くなるぞ」
拳の突き出し方を手取り足取り教えるエトナ。
両親を殴る為というのは勿論だが、シロの、
「少しでも強くなりたいんです。僕にも戦い方を教えて下さい」
という願いを受けて、ついでに護身術の手解きもする事にした。
「ヤクト蹴飛ばしたりした辺りでそう思ってたけど、やっぱり筋いいな。
この分ならどんどん上手くなるぞ」
「ありがとうございます。これからも宜しくお願いしますね」
「おう、勿論!」
「この辺はもう来た事無いな。・・・おっ、あれか?」
「多分そうですね。えっと、お金を入れて・・・」
二人が次の目的地として選んだのは、商業都市ノノン。
行商人を中心に様々な商人が集まるこの街には数多くの商会があり、
それぞれが助け合ったり競い合ったりして、この街で一獲千金を狙っている。
「色々な物が流通してそうですね」
「何があるんだろうな。行こうぜ、シロ」
門にいた衛兵に馬車の保護を依頼し、二人は街へと入っていった。
「寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 今日も明日も大安売り! 素敵な洋服揃ってるよ!」
「冒険初心者大歓迎! 安くて良質の武器、揃ってるぞ!」
「ウチに無い物は無いよ! 何でも屋へいらっしゃい!」
ノノン名物、中央市場にて。
大勢の商人が品物を売り捌こうと、声を張り上げている。
更によく見ると、あちこちで商談をしていると思しき商人が見つかる。
また、今は誰も居ないが、ステージのようになっている所では、所謂『競り』が
行われるのだろう。
「ラシッドにもお店は沢山ありましたけど、その比じゃないですね」
「どれから行く? シロの行きたいとこならどこでもいいぞ」
「そうですね・・・あっ、あそこに行きましょう」
そう言ってシロが指差したのは、装飾品を並べている露店だった。
「らっしゃい! お、オーガに坊主・・・ほほーっ、おアツい事で」
麻布の上に商品を陳列し、自身は小さな折り畳みの椅子に腰かけている露店商。
シロとエトナの二人を見て、ニヤニヤしながら囃し立てた。
「だろーっ! アンタ気に入った! 色々買わせてもらうからな!」
「あざーっす! ほら色々あるから見てけ見てけ! うちのは安いが、
造りはしっかりしてるから長く使えるぜ!」
「エトナさん・・・あ、でもこれとか確かに。これで銅貨2枚は良心的な価格ですね」
テンションの上がるエトナと、冷静に商品を分析するシロ。
すると、露天商は商品を手に取り、二人に差し出した。
「これなんかどうだ。ミサンガって言ってな、糸を編みこんで作った腕輪だ」
「確か、自然に切れたら願いが叶うという言い伝えがあるんですよね」
「坊主よく知ってるな。どうだいお二人さん。お揃いで買ってみないか?
今なら2つで銅貨1枚にまけとくぜ」
「これいいですね。エトナさんは?」
「アタシも欲しいな。買うか」
「まいどあり! 他にも買ってくかい?」
「それじゃ・・・そこの髪留めを一つ」
「坊主、気前いいねぇ。そんなお前におっちゃんからプレゼントだ。
おもちゃみてぇなもんだけど、この指輪やるよ」
「えっ、これはおいくらで・・・」
「プ・レ・ゼ・ン・トだっての。タダだタダ。ガキがんな事気にすんな。貰っとけや」
「それじゃ・・・ありがとうございます」
「おう。その代わり、ウチの商会を紹介してくれ、なんつってな。ほら、これもやるよ」
露店商はシロから銅貨3枚を受け取りながら、一冊のパンフレットを手渡した。
大きさは縦に30cm、横に20cm程度。ページ数は20ページ弱といった所か。
表紙には橙色の文字で『ヨナレット商会』と記載されている。
「商会によっては、固有のサービスやってるとこもあるんだ。
例えばウチは年に3回、抽選で金貨が当たる福引きとか」
「流石商業都市。その辺りで差別化を図ってるんですね」
「面白いとこだな。んじゃ、他のとこも見て回るとするか」
「それがいい。・・・ところでお二人さん、ちょっと耳貸してくれるか」
「「・・・?」」
突然、神妙な面持ちになった露店商。
二人は少し訝しがったが、とりあえず耳を傾けてみる。
すると、露店商は小声で語りかけた。
「ここだけの話、ベング商会にはなるべく関わるな。
逆三角形で、赤地に3つの黒十字のバナーがある店には行かない方がいい」
「・・・ど
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