9.三歩下がって五歩進む

時刻は朝5時半。
シロはいつもより早く、起床した。

彼は普段から早起きな方ではあるが、この日は殊更に早かった。
重たい瞼を開け、ぼんやりと、

「んっ、んちゅっ、むっ、んちゅっ」

する事無く一気に目を覚ました。

「ふぇっ!? 何が・・・?」

何処からともなく聞こえる、淫らな水音。
何故かとても温かく、気持ちいい股間。
そして、抱き合って眠っていた筈のエトナが隣にいない。

確認の為、自分の掛布団をめくってみると、そこに居たのは。

「ちゅっ、ちゅぱっ・・・ふぁ、おふぁほぉう、ふぃほ」

予想通り、エトナだった。
陰茎を咥えたまま、視線のみをシロに向けている。

「エ、エトナさん!? 何して、んっ、ですか!?」
「ん、ちゅぱっ、みふぇのふぉうひ・・・」
「一旦止め、あっ! て、下さっ、んんっ!」

柔らかな舌と口腔、唇の感触に上半身を跳ねさせながら、シロは静止を求める。
あまりにも挙動が大きかったので、エトナは一度口を離した。

「ん。おはようシロ」
「おはようございます・・・じゃなくて。何をしてるんですか」

色々言いたい事はあるが、とりあえず最も強い『困惑』の感情から、
疑問の言葉が出た。
それに対してエトナは、自身の唾液に塗れたシロの陰茎を手でしごきながら、

「見ての通り、朝フェラ」

非常にシンプルに、返答をした。

「いや、それは分かりますけど、何故?」
「こういうのって男の夢だろ? 目ぇ覚めたら勃ってたからさ、パクっと」
「・・・確かに、気持ちよかったですけど、それより・・・」
「んじゃ問題ないな。あむっ」
「あひぃっ!」

一気に全体の3分の2近くまで咥え直し、更に思いっきり全体を吸う。
まだ射精という経験の無い身体でも、何かが出そうな勢いで。
と思ったら、突然力を弱め、先端部分、鈴口の辺りを唇で挟んだ。

「シロ」
「ふぇ・・・エトナさん?」
「ちょっとだけ我慢しろよ。・・・んっ!」
「あひゃぃぃっ!?」

上体が跳ねる。
ちゅるん、と音を立てて、シロの本体がエトナの口内に直接触れる。
つまり、陰茎の包皮が剥かれたのである。

中身を吸いだすようにして亀頭を露出させ、その痛みを感じさせないよう、
すぐに口腔粘膜に宛がう。
痛みに慣れて来たら、ゆっくりねっとりと優しく舐る。
こうする事で、シロは殆ど苦痛を感じずに、大人への一歩を踏み出せた。

にゅるり、にゅるりと、無防備な陰茎に舌が這う。
触れられなかった所が存在しなくなるくらいに、シロは全体をくまなく舐められた。

「んにゅ・・・んっ。ふぃほ、ひもひいいふぁ?」
「ああっ! ひゃっ、やっ、ああんっ! ひゃっ!」

シロの喉から出るのは、言語の用を成さない、反射的な喘ぎのみ。
確かに、包皮を剥かれた時の痛みは殆ど無かった。
しかし、与えられる快楽が強すぎて、呂律が回らない。

シロが感じてくれている。そう、エトナが思った時。

―――この子を、犯しちゃいけない!

「・・・っ!?」

呪文が、発動した。
しかも、タリアナの時とは比較にならないほど強い。

「・・・んはっ!」

反射的に、シロの陰茎を口内から解放する。
唾液が光を反射し、外気に晒されたそれが震える様は、酷く淫猥だった。
・・・が。

「エトナ、さん・・・」

エトナは、この時漸く気付いた。
やってはならない事をしてしまったと。



シロが、怯えていた。



自分を見るその瞳は、不安と恐怖に塗りつぶされ、
輝きを失っていた。

(・・・アタシは何やってんだ!)

下唇を強く噛む。
行為に夢中になるあまり、シロの気持ちを考えていなかった。

少し考えれば、分かるはずだった。
シロが、無理矢理犯されることを恐れる事くらい。

「ごめんっ! アタシは・・・何て事を・・・!」

エトナが頭を下げたのは、謝る為だけではない。
自分の所為で怯えきったシロを、見たくなかったということもある。
寧ろ、そちらの方が大きいかもしれない。



(・・・?)

辺りが静寂に包まれたまま、
ふわりと、エトナの頭に何かが触れた。

「エトナさん」
(・・・!?)

シロの声が、響く。
柔らかなソプラノの、少年らしい声。

「大丈夫ですよ」

頭に触れていた何かが、動く。
初めての感触だが、エトナはそれが何かよく知っている。

「分かってますから」
(・・・あっ)

シロの小さな手が、そっとエトナの頭を撫でていた。

少年が、自分よりずっと大きいオーガの頭を撫でるという、
ちぐはぐな光景がそこにあった。

時折、エトナの髪を手櫛で梳かすようにしながら、背中へと手を伸ばす。
大丈夫、分かってる、心配ないと、声をかけながら。

「シロ・・・」
「怖がらせるつもりじゃ、無かったんですよね」
「・・・当然だ、バカ・・・!」
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