「・・・ダメです。やっぱり焦げます」
「俺もダメだ・・・くそっ、どうすれば!」
『卵は余裕あるから、とりあえず焼いてみろ』というラザクの一言から数分。
シロとラザクは油無しでオムライス用の卵焼きを作ろうとしていたが、一向に上手くいかない。
「良くて普通の薄焼き卵。やはり半熟にするのは難しいですね・・・」
「すまねぇ坊主。俺の息子がバカ野郎なばっかりに・・・」
焦げ付きを洗い流し、再度卵を投入する。
「火加減を落として・・・ダメか」
「逆に強火で・・・そらそうか」
試行錯誤を繰り返す二人。だが、解決策は見出せない。
焦りが募り、手の平から汗が滲み出る。
そして、シロにはもう一つ、不安があった。
(エトナさん、一体どうしたんだろう・・・)
その頃、エトナは。
「うおおおおおおおおおおお!!!!!」
全力で走っていた。
初めてシロと出会った時と同じか、それ以上の速さで。
(これなら、油代わりになるはず!)
油が無い。
それを聞いたとき、代替品としてある物を思い出したのである。
馬車に置いてきたそれを持ち出し、大急ぎで店に戻ろうとしていた。
(早く・・・1秒でも早く戻らねぇと!)
店まであと少し。
油の代替品が入った瓶を持ちながら、エトナは全力で走り続けた。
「おいまだかクソ野郎!」
店は、一触即発の状態にあった。
痺れを切らした客が、遂に厨房へと乗り込んで来たのである。
「お客様すみません! 只今、油の在庫が・・・」
「あぁん!? あんな啖呵切っといて油がねぇだ? ふざけんな!」
店員に詰め寄る客。そして。
「おいそこのクソ坊主! テメェ責任とれんのかコラ!」
怒りの矛先は、シロへと向かった。
「本当にごめんなさい! 今、なんとか・・・」
「俺はもう待てねぇんだよ!」
拳が、突き出される。
エトナが店にたどり着いたのと、厨房から鈍い音が鳴り響いたのは、ほぼ同時だった。
「・・・ぐっ・・・」
「ラザクさん!?」
客の拳は、当たっていた。・・・ラザクの、頭に。
シロの顔面目がけて飛んで来た拳に、自らの頭を突き出したのである。
「平気、だ・・・こちとら昔は『オリハルコン頭のラザク』と・・・呼ばれてたん、だぜ・・・!」
途切れ途切れになりながら、心配する必要は無いという事をシロに示そうとするラザク。
その時、音を聞きつけたエトナが厨房に駆け込んだ。
「大丈夫か! シ・・・」
「オーガ・・・約束は、守っ、た・・・ぜ・・・」
左手の親指を立てながら、笑みを浮かべつつ、ラザクは床に倒れた。
それを険しい顔で見ていたエトナだったが。
「店主さん・・・! あ、そうだシロ! これ使えねぇか!」
そう言って、シロに瓶を渡す。その瞬間。
「・・・あーっ! エトナさん、お手柄です!」
シロの顔が輝く。
そして、すぐさまオムライス作りに取り掛かった。
「出来ました。『とろとろふわふわ半熟オムライス』です」
暴れる客をエトナが押さえて数分。
シロは、見事な半熟オムライスを完成させた。
「ほー。見てくれはさっきと大分違うな。で、味はと・・・」
スプーンで掬って一口。ゆっくりと噛みしめる客。
一呼吸置いた後、スプーンを置いた。
辺りに緊張が走る。果たして、シロの作ったオムライスは客を満足させる事が出来るのか。
数時間にも感じられた数秒後。客はゆっくりと口を開いた。
「・・・参った。こんな美味いオムライス初めてだ」
「と、いう事は」
「あぁ。騒ぎ立てて悪かったよ。十分だ」
微笑む客。
それを見て、周りにいた店員とシロは、ほっと胸を撫で下ろした。
「エトナさん、本当にありがとうございます。助かりました」
「どういたしまして。しっかし、自分で作った物を忘れるとはな」
「あはは・・・」
エトナが持ってきた、油の代替品。
それは、シロが作ったマヨネーズだった。
『主成分は油』という事を、エトナはしっかり覚えていたのである。
「なぁ、これ何でこんなに美味いんだ? 何か足したってのは分かるんだが」
「えっと、それはですね・・・」
シロが客に説明しようとした瞬間。
突然誰かが割り込み、マヨネーズの瓶を取り上げた。
「それはですね、こちらの特殊なソースを加えたのでございます」
さも自分がそれを提案したかのように客に語る。
そして、それが誰であるかはすぐに分かった。
「おいヤクト! 何お前勝手に自分の手柄にしてんだよ!」
料理店の息子、ヤクトである。
この騒動の中何処に行っていたのか。そしていつの間に戻ってきたのか。
店員たちが話し出す中、ヤクトはやたらと丁寧に続ける。
「先ほどは私の弟が作った料理をそのままお出ししてしまい失礼致しました。
いつもは私が手直しして
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