街の入口、馬車の隣。
早朝の爽やかな空気に全くそぐわない、緊迫した状況がそこにあった。
「お前らが余計な真似してくれたおかげで、大目玉くらったよ。
たっぷり礼してやる。・・・おい、お前ら!」
ヤクトが声を上げると、辺りの草叢から数人の男が出てきた。
「おい、本当にいいんだろうな」
「構わねぇよ。このガキさえ捕まえときゃ、あいつは動けねぇ」
「へへっ、上玉じゃねぇか。でかしたぞヤクト」
下衆。
それ以外の何者でもない集団。
だが、たった一人の人質で、エトナは動けなくなっていた。
「卑怯者が・・・」
「口の利き方に気をつけろ。俺の気持ち一つでこのガキの命はねぇ。
大人しく黙ってる事だ」
ナイフをシロの首筋に近づける。
冷や汗が一滴、刃に落ちた。
「で、どうするよ? とりあえず剥くか?」
「バーカ。半脱ぎが一番そそるだろうが」
「何でもいいからさっさとしろ。・・・おいガキ。よーく見とけ。
テメェが余計な真似しやがったせいで、お姉さんが輪姦されるとこをよ」
ナイフの刃が、シロの皮膚の張力を超える。
僅かに、血が滲んだ。
それが、引き金だった。
「・・・正当防衛成立、ですね」
「あ? 何か言っ・・・あがっ!」
左足を思い切り振り上げる。
その踵は、見事にヤクトの股間に刺さった。
怯んだ隙を見逃さず、ナイフを奪い、ヤクトから離れるシロ。
そして。
「エトナさん! ボコボコにして下さい!」
「おう!」
返事をするが早いか、エトナは周りにいた男達を蹴散らした。
当然、あっという間に決着がつく。
一応、急所は外してあるのが、せめてもの情けか。
「人質を取るなら拘束してから。常識ですよ」
「不意打ちはシロの十八番だからな。流石にここで炸裂するとは思わなかったが」
「ぐっ・・・」
あっという間に形勢逆転。
程なくして、悪足掻きのタックルをしようとしたヤクトをエトナが気絶させ、
辺りには6つの伏した男達が転がった。
「本っっっっっっっっっっっ当に!!!!! 申し訳なかったーーーーー!!!!!!」
ヤクト含む男たちを運び、料理店へ。
大地を揺るがすほどの大きな叫び声を上げ、比喩でも何でもなく地面に頭をめり込ませて
土下座をするラザク。
確かに酷い悪行をされかけたが、二人はこの時、軽く引いた。
「いくらバカな息子とはいえ、人の道をここまで踏み外していたとは露知らず!
親としての責任を果たさず! 取り返しのつかない事をしでかした!
死ねと言うなら今すぐ喉を掻っ切る! 代償を寄越せと言うのなら臓器を売ってくる!
本当に、本当に、申し訳ないっ!!!」
地面に何度も頭を打ち付るラザク。
額からは血が流れ、辺りには何事かと思って人だかりができる。
「あの落ち着いて下さい。その・・・むしろ迷惑です」
「いや確かにとんでもねぇ事してくれたが・・・一回落ち着け」
土下座マシーンと化していたラザクの頭をエトナが掴み、動きを止めさせる。
ラザクの顔は血と汗と涙と砂埃と・・・それはそれは酷い事になっていた。
「まぁ何だ。シロと話したんだが、別にアタシ達はこれ以上どうこうするつもりはねぇ」
「ですから落ち着いて、ヤクトさんによく言い聞かせて下さいね」
そう、二人が言ってから数秒。
今度は、大粒の涙を流しながら。
「その寛大さ、大変痛み入るっ! 本当にすまなかった!」
大声を上げ、もう一度土下座をした。
「・・・って痛ーーーーーっ!? デコがっ! デコが痛ぇ!?」
「何を今更」
「多分、アドレナリンの分泌が止まったのでしょう。
とりあえず急いで手当てを」
「少し散歩をしてたんですけど、そしたらヤクトさんに・・・」
「そっか・・・今度からは起こしていいからアタシも連れてけ」
遅めの朝食はシロの作った半熟オムライスと野草サラダ。
ちなみに、二人の食べているオムライスの大きさは倍近くの差がある。
「エトナさんが野草に詳しくて助かりました。大分費用が浮きましたよ」
「ま、これくらいはな。食うだけっていうのも嫌な話だし」
基本的に、オーガは山岳等に棲む。
エトナもその例に漏れず、街から街への移動の際もよく山越えをしており、
その際に食べられる野草やキノコ等の自然植物を(勘を頼りに)採れるようになっていた。
「けどこの・・・マヨネーズ? だっけ? 何か野草に合うな」
「本に載ってたんで、作ってみたんですよ。主成分は油なんで、摂りすぎはよくないですけど」
馬車の中で、談笑をしながら楽しく過ごす。
そして、二人が食事を終える頃。
「シロ。あのさ・・・あの時は上手くいったけど、もうするな。
下手したら死んでたんだぞ?」
エトナは、気が気でなかった。
シロの素早い判断と行動で状況が一変したとはい
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