「おはようございます、領主様」
「おはよう、領主さん」
「おはよう。昨日はお楽しみ、だったかな」
「そりゃもうバッチリと」
「ちょっ、エトナさん!?」
港町タリアナ、領主の城。
平和を取り戻した街は以前通りの活気を見せていた。
「ここから見えるだけでも、すごく発展した街なんですね」
「王国の施策と同じく、魔物を積極的に受け入れた成果だ。
といっても、あんな事があったのだ。当分魔物は来てはくれまい。
周辺の街と連携して、誘致活動をせねばな」
「安心しろって。こんないい男ばっかの街をアタシらが見逃すわけないだろ」
「そう言って頂けるとありがたい。私はともかく、民は・・・」
「おいおい。この街一のいい男が何言ってんだよ」
「世辞はよせ。それに、私にはもう妻がいる。
魔物に現を抜かすような事があれば、私はその日中に魚のエサだ」
「だとしても、スキュラやメロウが放っておかないと思いますが」
「はは。シロ殿。そなたはもう少し子供らしく生きろ。
こういう会話での上手い言い回しが必要なほど、老いてはいまい」
「本心を喋っただけなんですけどね。善処します」
「だからそう難しい表現を・・・まぁ、これも一つの個性か。
馬車は外に用意してあるが、折角だ。朝食もここで食べていけ」
「お、それじゃご馳走になりますか」
「あの、領主様?」
「どうした? シロ殿」
「これ、本当に貰っていいんですか・・・?」
そこにあったのは、良質の木材を使い、要所に装飾を施した、
それはそれは豪勢な屋根つきの馬車。
その前方には、黒毛の馬が二頭繋がれている。
「僕の知ってる馬車と大分違うんですけど・・・」
「本来君達に与える恩賞は馬車一台程度では済まぬのだ。そこで、
『シロ殿の提示した枠組みの中で』私なりに最大限の感謝の気持ちを表した。
領主として、この街を救ってくれた英雄に野宿をさせる訳にはいかない」
「馬車っていうより、移動式の宿屋だな。領主さん、ありがとう」
「構わんよ。それより、次は何処へ行くつもりだ?」
「うーん、ここからだと王国に行くには山越えになるんですよね。
北上して回りこむつもりです」
「ならばとりあえず、ここから少し行った所にある宿場町に行ってみたらどうだ。
目立った所はないが、旅の計画を立てるにはいい場所だぞ」
「アタシも賛成。その辺りなら行った事あるし、急ぎの旅でもないしな」
「ですね。それでは領主様、僕達はこの辺りで失礼します」
「うむ。・・・皆の者!」
「「「「「はっ!」」」」」
領主が後ろを振り向きながら声を上げると、そこには沢山の兵士達が集まっていた。
すると、先頭の兵士長は頭を下げ、
「シロ殿、エトナ殿、お達者で!」
「「「「「お達者で!!!!!」」」」」
二人に、餞の言葉を贈った。
「何かあったらまた来るとよい。君達なら何時でも大歓迎だ」
「ありがとうございます。皆さんもお元気で」
「ありがとな。それじゃ、行ってくる!」
タリアナを出て三十分後。
馬車の中で、シロはエトナの膝枕で眠っていた。
「お疲れシロ。次の町までしっかり休め」
シロの柔らかい髪をそっと手櫛で梳きながら、寝顔を見つめるエトナ。
普段とは全く違う、母性溢れる姿である。
(シロの両親がシロを売った教会ってどこなんだろうな。
情報探すなら王都が一番だが、今はまだ、ゆっくり旅をしますか。
・・・しっかし、領主さん頑張りすぎだろ)
馬車の内部。
壁に取り付けられたランプ、毛皮の絨毯、
『餞別』と書かれた、中に旅道具や銀貨が入っていた木箱。
そして、クイーンサイズのベッド一台。
枕元には丁寧な事に『室内防音加工済み』と書いてある紙。
(余計な心遣いを・・・いやありがたいけど。凄くありがたいけど。
・・・うー、またヤりたくなってきた・・・)
「さん・・・エトナさん・・・」
「ふわっ!?」
シロの寝言に驚き、素っ頓狂な声を出すエトナ。
「だい、すきです・・・むにゃ・・・」
「・・・アタシも。今度は起きてる時にな」
安心しきった寝顔。
それを見ている内に、エトナの欲望はいつの間にか、なりを潜めていた。
「お、見えてきたな」
「あれですか? 小屋が何軒かある辺りの」
「それ。ここから見えてる分は大体宿屋か酒場だな」
夕方、空の色がほんのりと赤らみ始めた頃、二人は宿場町に到着した。
宿場町ロコ。大陸北方への中継地点の一つ。
特徴が無いのが特徴という、至って普通の宿場町。
強いて言うなら町の位置が旅人にとって丁度いい、という位か。
「何にも無いとこだけど、だからこそ落ち着くんだよな、この町」
「領主様から頂いた地図によると・・・ここからは色々な方向に進めそうですね。
王都への最短ルートは北東ですけど、北の方が
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