港町タリアナ中央部、領主の城、謁見の間にて。
領主代理はその巨体を震わせながら、激怒していた。
「どういうことでちゅか! 何でぼくちんが殺されないといけないんでちゅか!」
「領主様、ご安心を。我々タリアナ軍全勢力を上げて護衛を・・・」
「うるさいでちゅ! ぼくちんを誰だと思ってるんでちゅか!」
この日の朝、城壁に一枚の怪文書が貼られているのが発見された。
『今宵、民衆を苦しめる愚かな領主に天誅を下す』
その前日、酒場にて。
「領主様は齢五十五にして溌剌とされており、仁徳溢れるお方でして、
この度お倒れになられた事につきましては、民衆一同胸の痛む思いで・・・」
「さぞや、素晴らしい方なのでしょうね。是非、お会いしたかったです」
カウンター席にて、酒場の店主と話をしながら、葡萄ジュースの入ったグラスを軽く傾けるシロ。
一口、それを飲んだ後、店主はシロに語りかける。
「お客様は、一人で旅を?」
「えぇ、東洋の国の諺で『可愛い子には旅をさせよ』というのがありまして、
それが家訓なんです。父も、僕と同じ位の頃に諸国を渡り歩いたそうです」
「お若いのに立派な事で。領主代理殿にも見習って頂きたい物です」
「それでは今の言葉、現領主にお伝え致しましょうか?」
「お気遣いなく。私はもう暫く、地に足、胴体に頭のついた生活をしていたいのでね」
そう言いながら笑う店主。それを見て、同じようにシロも苦笑した。
「おい、こんな所にガキがいるぜ」
「お、いいねぇ。しかもあの革袋・・・銅貨だとしてもかなりの額だな」
「出てきてすぐさらっちまえば誰にもバレっこねぇ、最高のカモだぜ」
大柄な男と、その腰巾着らしき細身の男2人。
港町には荒くれ者が多い。彼らの場合、ただのチンピラの類だが。
シロの入っている酒場の外で、下卑た笑みを浮かべている。
「言っとくけど山分けだぜ? 分かってるだろうな?」
「勿論。ま、実際どうなるかは分かりませんがね」
「おいおい、何を言ってくれてんだよ」
「あぁ、全くその通りだ。おまけに今日のアタシは機嫌が悪い」
「その通りだ。俺は今朝のメシが不味くて・・・え?」
素っ頓狂な声を上げる大柄の男。
3人の男が振り返ると、そこには。
「・・・アタシの男に何をしてくれようとしてんだお前らは・・・」
『情報を集めてきます。僕が危なくなった時はお願いしますね』とシロに言われ、
酒場の入り口で待機していた所、彼らの話を聞き、
背後に炎が見えるほどに怒っている、エトナ。
その目は笑っていない。というより、全体的に見ても笑っていない。
「「「お、お、オーガ!?」」」
男達が揃って声を上げるのと同時に、エトナは指を3本立てる。
「シロが暴力嫌いでよかったな。アタシの手がグーになるまで待ってやるから失せろ」
ゆっくり、薬指を曲げ始めるエトナ。
しかし、男達は動こうとしなかった。
「へっ、な、何を言ってやがる。よく見てみろ、3対1だぜ?」
「そ、そうだ! 今なら見逃してやるからよく考えろ!」
「俺の親父は元軍人だ。その血を受け継ぐ俺に勝てると思ってるのか?」
弱く、愚かな者ほど、相手の強さを理解出来ない。
エトナが人差し指を折り曲げた後、完成された拳から繰り出された突きは
一瞬で、3人の男の意識を闇へと葬った。
「一応、忠告はしたから殴っても大丈夫だよな。・・・シロ」
その夜。
宿が取れない為、仕方なく町の外で野宿をする事になったシロとエトナ。
焚き火の前に寄り添いながら、二人は会話をしている。
「町の方の話によると、領主は療養の為、遠方へ行かれたとの事。
そして、肝心の『X』についてですが・・・これを見て下さい」
ポケットから新聞の切り抜きを取り出し、それを広げるシロ。
そこには、丸縁眼鏡をかけた中年の男が写っていた。
「庶務副大臣ベルク・エレストロン。初代より何らかの形でタリアナの政治に関わっている
エレストロン家の6代目当主です。半年前、世襲で大臣の座に就き、今に至るとの事です」
「見た感じはただの小汚ぇオヤジだな。まぁ、何事も見た目で判断するもんじゃねぇが」
「気になる点は3つ。エレストロン家は代々反魔物家であり、教団と密接な関わりがある事、
就任以来、民衆の前に姿を見せていない事。そして何より、領主の息子、
つまり現領主の教育係も兼任しており、領主代理を務める事になった息子は今回、
領主としての職務の殆どをこの教育係に丸投げしているそうです。
魔物に対して極端に圧力をかける政策の発案者は、恐らくこの人でしょう。
施行自体に関しては、なるべく自分に批判が来ないように、領主代理にさせていると思いますが」
焚き火に枝をくべながら、シロは続ける。
「3件ほど酒場を回って、
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