「エトナさん・・・ちょっと・・・」
「ん、休憩か?」
ラシッドを発って早2日。二人は海沿いの道を歩いていた。
ここまでの移動手段は全て徒歩。自給自足が基本の生活であった為、同年代と比べれば
遥に体力のあるシロだが、流石に子供には辛い。
「ごめんなさい、僕のせいで」
「いやいや、むしろ頑張り過ぎだ。あと5分位何も言わなかったら
こっちから声かけるつもりだったし。んじゃ、ほら」
そう言いながらリュックを身体の前面、胸に移動させ、しゃがむエトナ。
シロが疲れて歩けなくなった場合、こうして背負う事によって二人は歩を進めていた。
「エトナさんの背中って、何だか安心します」
「そんなの初めて言われたな。いや、こういう事そのものが初めてだが」
「広くてあったかくて、すごく落ち着くんです」
「・・・嬉しくはあるが、ひょっとしてアタシ、オヤジ臭いか?」
「え、いやいや、そういうのじゃないです!
でも、僕はお父さんにもお母さんにもこういう事してもらってませんから」
「あ、悪い。余計な事思い出させちまって・・・」
「気にしてませんよ。でも、エトナさんにばかり迷惑かける訳にも行きませんし、
次の街を出るときは馬車でも買った方がいいかもしれませんね」
二人の歩く道の数キロ先。
そこには、最初の目的地である港町があった。
「ほい到着」
「うわー・・・これが外の街なんですね・・・」
港町タリアナ。ここは漁業と貿易が盛んな港町で、人・物・金の3つが
最も集まる地だとされている。
それだけに非常に発展しており、王都に次ぐ大都市として、その名を王国全土に馳せている。
「んじゃとりあえず腹ごしらえと、宿の確保だな」
「ですね。・・・ワクワクします」
二人がこの町を訪れた理由は大きく分けて二つ。
一つは、単純に大きい街であり、世界中を旅するに当たって必要な物を
揃える事ができるから。
ラシッドだと物は多いが、粗悪品があったり、相場の倍額をふっかける者がいたりと、
色々と問題がある為、食料の類を基本とした最低限のものしか購入していなかったのである。
そして二つ目は、エトナの強い勧め。
漁業が盛んなタリアナは、エトナ好みの逞しい漁師と、うまい魚が食える街として、
シロと旅をするに当たって、最初に連れて行こうと決めていた所なのである。
「アタシに任せとけ。腹いっぱいうまい魚食わせてやるよ!」
「山にいたころは川魚しか食べてませんでしたから、海の魚をお願いしますね」
「・・・おい、もう一回言ってみろ」
「ですから、最も安い物でも金貨30枚から・・・」
港の近くの酒場。
比較的安価に酒と魚料理を楽しめるこの店は、仕事帰りの漁師と町の庶民がよく来る店である。
と言う事で、エトナは早速そこにシロを連れて来たのだが、どうも様子がおかしい。
「ざけんな! 白魚の刺身3切れで金貨30枚だ!? ここはいつから
こんな阿漕な商売始めるようになったんだよ!」
「お、お客様! 落ち着いて下さ痛い痛いもげるもげる首がもげる!」
「エトナさんストップ! 暴力に訴えないで、まずは話を聞きましょう!」
「・・・シロが言うなら仕方ねぇか」
シロの制止の願いに渋々、ヘッドロックを外すエトナ。
店員はそのまま床に倒れたが、何とか意識は保っているようである。
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・」
「んじゃ、説明してもらおうか。どういう訳なんだ」
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・そ、それは・・・ぜぇ・・・」
「一旦呼吸を整えて下さい。それからで構いませんから」
そうシロに言われてから一分ほど、呼吸を整える店員。
何とか顔に血色を取り戻し、語り始める。
「つい先月、領主様が病に倒れ、完治するまでは、ご子息が代行を務める事になったのですが、
領主様の息子は何といいますか・・・その、所謂ドラ息子でして。
税金は上げるわ、上質な魚は独り占めするわ、密漁や乱獲を推し進めるわ・・・
おかげで、街は衰退する一方でして・・・」
「なるほど。確かに、乱獲により供給が減少すれば、必然的に価格を上げざるを得ませんからね」
「キョウキュウ? 重量級みたいなやつか?」
「でも流石に金貨30枚というのはどうでしょうか? 均衡価格から外れてると思うのですが」
「キンコウカカク? 有名人か何か?」
「・・・エトナさん。用語は後で説明するんで、申し訳ないですが少し黙って頂けますか?」
「ん、そうか。なら黙る」
「ごめんなさい。・・・えっと、店員さん。その辺りいかがなのでしょうか」
シロが価格に対する質問を投げかけた途端、店員の顔が曇った。
同時に、目が泳ぎだす。
「そ、それはですね・・・あ、私はまだ仕事があるのでこれで!」
「え、ちょっと店員さん!?」
答えを返さず、逃げる店員。
後には、呆然としている
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