「ここで、いいんだよな」
荷物を地面に起き、看板に書かれた文字をもう一度読む。
…うん、間違いない。ここが依頼主のミリーさんの店だ。
さて、それじゃさっさと済ませますか。
「すいませーん、ギルドの者ですがー」
僕の名前はフェイル。先月ギルドに名前を登録したばかりの新米冒険者だ。
といっても、まだダンジョン攻略に行けるような力も経験も無いので、
こうしてギルドの依頼をこなして糊口をしのいでいる。
で、今回の依頼は道具の運搬なんだけど…
「…留守、かな」
困ったな…このまま荷物を置いていくだけじゃ、報酬が出ない。
依頼主から直接払い出されればいいんだけど、報酬はギルドが預かって、
達成されたという旨が記されたサインを持って行かないと払われないんだよな。
トラブルを防ぐ為だって役人は言ってるけど、
多分、幾らか着服してると思う…
…流石にそれは勘繰り過ぎか。
さて、剣の手入れでもしながら、依頼主が帰ってくるのを待ちますか。
待つこと数十分、依頼主の登場である。
「あら、どうしたの坊や?」
「ギルドの者です。荷物を届けに参りました。
ええっと、こちらが依頼の品の染色剤で宜しいですね?」
「1、2、3…うん、揃ってる。それじゃ用紙出して」
依頼の内容が書かれた紙と羽ペンを渡し、サインを書いてもらう。
無事、今回の依頼も達成した。あとは戻って報酬をもらうだけ。
それにしても、ちょっと驚いたな。洋服店を営んでるって辺りで
なんとなく予想はしてたけど…
「アラクネ、なんですね」
「そんなに珍しいかしら?」
「いえ、そういった意味で言った訳では…」
美女の上半身に、8本の脚。
紛れも無く、アラクネである。
この辺りの地方は比較的魔物が多いので、そんなに珍しい事でも無いけど。
「長旅ご苦労様。今日はもう遅いし、泊まっていきなさい」
「ありがとうございます。それでは、お言葉に甘えさせて頂きます」
こうして宿代が浮くとちょっと嬉しい。
本格的に冒険者やるには、先立つものも必要だしね。
「ふあぁー…あー…♪」
『疲れてるだろうし、汗でも流してきたら?』というミリーさんのご好意で、
お風呂に浸からせてもらっている。
しかし、広いお風呂だなー。下手したらここだけで僕の家が入るんじゃないかな?
と、僕が物思いに耽っていると、突然風呂場のドアが開いた。
「湯加減はどう?」
「え、ちょ、え、ミリーさん!?」
現れたのはバスタオル1枚身体に巻きつけただけのミリーさん。
視界がちょっと湯気に覆われているけど、それでも抜群のスタイルはくっきりと見える。
いやいや、というか何考えてるんだこの人!? 人じゃないけど!
「背中流してあげるわ。こっちにいらっしゃい」
「いや、そんな申し訳ないですって! 自分で大丈夫ですから!」
「折角こうして来たのに、断る方が申し訳ないわよ。遠慮しないで来なさい」
まさか誰か来るなんて思ってなかったから、今の僕はタオル一枚も無い、
完全な全裸。その、何というか…健全な男の証が…
…いや、待てよ。落ち着けフェイル。背中を流してもらうだけだ。
それなら、気づかれる事もないし、何よりそれ以上の事なんてありえない。
全ては僕が先走ってるだけだ…うん、そうだ。その通りだ。
「あー…それじゃ、御願いします」
「はい、じゃあ背中見せて」
ミリーさんに背中を向けると、お湯がかけられた後、タオルで背中を擦られた。
力加減は丁度良く、とても気持ちいい。
「背中小さいわねー。本当に男の子?」
「一応生物学的にはそちらに属するはずです」
「女の子みたいな顔してるのにねぇ」
う…結構気にしてるのに。
「うちの女物の服とか着てみる? きっと似合うわよ」
「すいません、勘弁して下さい」
「冗談よ。それじゃソープつけるわね」
後ろでソープが泡立っている音が聞こえる。
あれ、なんか別の音も聞こえるぞ。何だろう、言うなら衣擦れのような…
ってうわあっ!?
「ちょ、ミリーさん何してるんですか!?」
「貴方の背中にソープをつけてるんだけど」
「いやそうじゃなくて!」
背中に塗られているソープの感覚より遥にはっきりと感じられる、柔らかな何か。
何か、といってもそんなの一つしか考えられないけど。
あぁ、むにゅむにゅして気持ちいい…じゃなくて。
「ここそういうお店じゃないですよね、洋服店ですよね!」
「あら、そういうお店は嫌い?」
「行った事無いですよ! 僕まだ17ですから!」
「『そういうお店』がどんな所かはしっかり知ってるみたいね」
「え、あ、うぅ…」
「ふふ、それじゃあこういう経験は初めてかしら?」
ええ全くの初めてです。と思っていたところ、ミリーさんが僕の前に移動してきた。
[3]
次へ
[7]
TOP[0]
投票 [*]
感想