ヒガシからキタ

1



鬱蒼と生い茂る木々の合間を縫う様に、二つの影が風切り音を立てながら走る。

「おい!もっと早く走れないのか!?」

先頭を走るのはやたらと筋の張った… いや、人とは思えない程に筋肉の発達した男だ。特にその腕は丸太のごとき太さを誇る、木の根を蹴り砕きながら突き進むその姿は、僅かな月明かりさえ木々の葉に遮られた暗闇では最早人には見えない。

「まっ…待ってよ!そっちじゃないって!」

後ろを続くのは太った背の低い男だ。コートを着込み、白い息を吐きながら大粒の汗を流している、先頭の大男が整地した道を続くが、こちらは息絶え絶えである。

「は!?さっきこっちって言ったのはお前だろうがよ!」
「アロイス君が…はぁ…はぁ…少しずつズレてるんだよぉ…」

アロイスと呼ばれた巨大な男は、もう一人の男とは別の意味での汗を額に浮かべ、。
「あ!…んだと!…よし、じゃあ カール、お前先頭走れ」
「無理だよ!…僕ももう良い年なんだからさ…って君もか… っじゃなくて!僕の話聞いてる!?」
「話だぁ!?今そんな場合かよ!」
「場合だよ!」
「じゃあ喋れ!3秒で喋れ!そしたら行くぞ!」
「少し時間をくれれば、転移魔法の陣を敷けるって言ってるの!!」
カールは一息に喋り切り、出し切った空気を肺に戻しつつその場にへたり込んだ。
「…」
アロイスは言葉を咀嚼する様にその場で足踏みをし…、やがてカールが何を言わんとしているのかを理解したらしく、目を丸くして固まった。
「なんでそれを先に言わないいいい!!!」
「最初から言ってるでしょうが!最後まで聞かずに君が勝手に走り出したんでしょーがあああ!!」

二人は大声を出し終えた体制のままで暫く息を整え、大きく一呼吸すると、アロイスが適当な枝を拾ってカールに投げ、カールはそれを掴み 急いで魔法陣を書き出した。
「…カール、今日は使えそうって事か?」
アロイスは荷物をまとめながら心配そうにカールの顔を覗き込んだ。
「大丈夫…使える時はなんとなくわかるんだ、今回は失敗は無いよ」
喋りながらも人一人入れる程度の魔法陣を書き上げたカールは、その上に縮こまってしゃがんだ。何を言われるでもなく、二人分の荷物を持ったアロイスはカールの上に仁王立ちした。
「それじゃあ飛ぶよ」
「頼むわ」
魔法陣が光を放つと、光の線となった魔法陣だけを残して風景が消え、夜の薄明るさすら無い、真っ黒な世界に飲み込まれた。
「お…おい、本当に大丈夫なんだろうな?」
声が反響する。キョロキョロと周りを見回すアロイスをよそに、カールは魔法陣に手を当て、針の先端を撫でるかの様にじっくりとその手を動かした。
「…っ! 出る!」
「は!?何がだ!?」
カールが合図した瞬間、魔法陣を中心にして風船が裂ける様に暗闇が消え、二人の周りには木々の生い茂る風景が再び出現した。
「…あれ?…嘘?…失敗…した?」
再び同じ場所に降り立ったと、カールはそう錯覚したらしく、挙動不審状態に陥ったが、アロイスは一息吸うと、目の座った戦士の表情になった。
「いいや、大成功だ。少し遅かったらしいがな…」
アロイスは地面に崩れたランタンの破片を拾い上げ、辺りを見回した。… 目を凝らせば、折れた剣や装身具の残骸等が散乱している。
「血腥えや…」
アロイスは落ちていた剣の一つをカールの元に持っていった。
「おい、この変な形の剣…」
「うん、間違い無いね、これはジパングで使われてる刀ってヤツだよ…文献でしか見た事無いけど…」
「そんでもってこっちはなんと…」
アロイスはランタンの残骸から飾り部分をむしり取ると地面に叩き付けた。
「こっこれ!教壇の隠密部隊…」
「だな…」
アロイスは額に青筋を浮き立たせながらにっこりと笑って 右手の人差し指を天に突き立てた。
「さて、カールよ…ここで問題だ。 エーヴァルトから聞いた情報では、ジパングの団体様は教壇の隠密部隊に勝るような装備や戦力を持ち合わせていたか?」
「ううん…」
「次だ、これだけひでぇ有り様なのになんで死体の一つも転がって無い?」
「…」
…魔物が関与した戦闘では死体は絶対に残らない。これは魔物しかない。…それしかないと、二人は悟った。
「ったくよぉ…魔物共も…教壇の連中も…」
アロイスは油の切れた機械のように震えながら首を一回しすると、大きく息を吸い込んだ。 そしてカールが耳を塞ぐのと同時に

「大っ嫌いだ馬鹿野郎が!!」

切れた。
「ジパング人は魔物の仲間だあ!?馬鹿じゃねぇのか!?」
アロイスが拳を振るうと、大木の幹が砕け散り、地面から解き放たれた樹木達が宙を舞った。
「人間は魔物の餌だぞ?それをお前!… 猫とネズミが共存するわけねえだろうがぁ!!エエエエー?!!」
放り投げた大木が叩き付けられ、地面を揺らした。
「それをお前ぇ
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