前半 −満月−

 コンコンコンッ

 深夜、戸口が控えめにたたかれる音がして、僕は泣き寝入りしていた枕から顔をあげた。

 「うるさいなぁ・・・」

 このノック、実に三十分ほどは続いている。いつもならこんな時間に誰か尋ねてくれば、村の誰かが急ぎの知らせでも持ってきたかもしれないと思い、慌てて戸口に出たことだろう。だが、今の僕は絶賛失恋中だ。村の人々もそれはわかってくれていて、この二、三日、だれも尋ねてこなかった。
 ただの失恋に大げさだ、と思うかもしれない。だけど、しようがないだろ?
 その相手は、どこか別の男に恋をしてるわけでも、どこか遠くへ行ってしまったわけでもない。いや、どこか遠くへ行ってしまったというのは当たっているかもしてない。だったら追いかけろ、とでも思うかも知れないが、それは無理だ。
 だって、彼女が今いるのは、村の外れにある墓場の暗い土のなかだ。
 出会って三年、同棲して一年の彼女だった。
 領主の息子だから、と村の皆との壁が少しあった頃、彼女と出会った。その直後くらいに、彼女のおかげか村の皆とも壁がなくなったかのように触れ合えるようになった。
 その彼女が、死んだ。
 死因はよくある事故。僕を驚かせようとでも思ったのだろう。彼女は、僕を起こすことなく朝早くに家を出て、村から町のほうへと出掛けていた。その先で馬車が横転する事故に遭ったのだ。当たり所が悪かったらしく、死に際の言葉も聞けないまま死んでしまったらしい。曖昧なのは、僕はそれをあとから人づてに聞いたからだ。
 葬儀の最中、僕は必死に参列したリリムに、ゾンビでもスケルトンでもいいから、彼女を甦らせてくれと頼んだが、その答えは僕の希望を裏切るものだった。彼女の話によると、血統的に無理らしい。
 そして、今にいたるわけだ。
 僕は恋人を失った悲しみにくれているというのに無遠慮なこの客は、どうにかして僕を無理にでも起こそうとしているらしい。

 コンコンコンッ

 「・・・」

 いいかげんイラだってきた。
 一言言ってやらないと気がすまない!と憤った僕は、ずいぶんと広く感じるようになったベットから抜け出し、ズンズンズンッと足を踏み鳴らしながら戸口に出た。

 「はいはい!どちらさま!?僕はあんたみたいなしつこいひ・・と・・・」
 「やっ、久しぶり。クロア君」

 煌煌と輝く満月の下、彼女が立っていた。いつものようににっこりと屈託のない笑みで僕をみつめて、その綺麗な鈴を鳴らすような声で僕の名前を呼ぶ、いつもの彼女だ。

 「ぇ、アウラ?えぇ?そんな?」

 僕は慌てて彼女の名前を呼び、身体中を見回す。生前(?)と全く変わらぬキメこまやかな白い肌に満月の光りを浴びてつやつやとかがやく腰まである金髪、それでいて、白いブラウスと青いフレアスカートに身を包んだ身体は、女性であると主張するかのように胸は突き出し、腰はくびれ、お尻も突き出ている。理想的なスタイル、といっても過言ではない、まさに僕の趣味にドストライクな豊満な体。
 事故で打ったという頭を触ってみるが、何も別状もなく細い金髪が指に優しく絡まり、そしてスルスルと抜けていくだけだった。
 
 「なあに?突然?」

 くすくすと天使のように笑って、アウラは僕を見た。僕は深夜で周りに誰も人がいないことをいいことに、ガバッと彼女に抱きついた。

 「きゃっ」

 腕の中でアウラが驚きの声をあげるが、そんなことは知っったことか。

 「怖かった。本当に怖い夢を見たんだ・・・君が死んじゃうなんて・・・」
 「あはは、心配かけちゃったね。事故にあったのは本当なんだけど、本当に大丈夫だから」
 「ぇ!だ、大丈夫なの!?」
 「大丈夫大丈夫。かるい脳震盪をおこしただけだから。しばらく気絶してて、街の病院の方で目がさめたの」
 「よ、よかった・・・」
 「そんなに心配してくれてたんだ・・・ごめんね、貴方を驚かせたくてみんなに黙ってもらってたんだ」

 アウラはそういって済まなそうな顔をした。そうだ、彼女はこういうイタズラっ子のような面も持っていた。
それで村のみんなが葬儀の時、彼女が死んだというのに、どこかよそよそしい雰囲気をだして、号泣していたのが僕だけだったんだな、と彼女の言葉が一気に僕の違和感を消し去った。

 「そっか、みんなひどいなぁ。僕をだましてたなんて、本気にしちゃったよ」 
 「ごめんね?私が言ったからだから、みんなを責めないで?」
 「わかってるよ、君と付き合うって決めた時から、君のイタズラに振り回されることは覚悟してたしね。さ、中に入ろう。こんな夜中に外で何十分もいたんだ、身体、冷えただろう?ごめんね、ずっと出なくて」
 「うぅん、いいの。クロア君がどれくらい私のこと思ってくれてるのがよくわかったもの」

 と、アウラはやさし
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