これは、ある一人の男の子の身に起きた、不可思議な出来事。
物語の主人公の名は鴻池 智鶴(こういけ ちづる)
彼は現在高校三年生。身長わずか155cmという驚異の低身長が特徴である以外は
特に特別な力とかもなければ妙な血とかも入っていない。
そんな彼は評議長という学校の生徒会執行部の一人として、
今まさに5月に定例で行われる生徒総会の進行を務めている。
「では最後に、今年度の各部活動の予算について――」
その顔は努めてポーカーフェイスであるものの、
どこかしら不機嫌な表情をしている。
「ヒソヒソ……(今日の総会は長引きますね。もう16時ですよ。)」
「ヒソヒソ……(評議長のあの顔。明らか不機嫌だと思われます。)」
「ヒソヒーソ…(おこちゃまか、ちーちゃんは。)」
二年女子の副会長、二年男子の会計長、そして三年女子の会長は
その様子に呆れつつも、耳に入らぬ様小声で言葉を交わす。
ちーちゃんこと智鶴は普段から責任感が強く比較的真面目で
大抵の仕事は嫌な顔一つせず笑顔で取り組む偉い子なのだが、
今回の生徒総会は若干真面目さに欠けている。
むしろ『なるべく早く終われ』オーラがひしひしと感じられるくらい。
しかし悲しきかな、14:30くらいに終わる予定だった生徒総会は、
とある議題で予想以上に白熱した議論が繰り広げられ、
今ようやく最後の議題に入るところのようだ。
「何か意見のある生徒はその場で挙手してください。」
役目が役目なので口ではそう言っているものの、
その目は『手をあげたら裁判なしで火あぶりにするぞコラ』
と言っているように見える。ちっちゃいので怖くないけど。
結局意見は出ず、議題は無事承認される。
智鶴の役目はようやく終わったのだった。
「お疲れさまでした評議長。議事録は私がまとめておきますね。」
「ん、ありがと。」
生徒総会が終わり、後片付けを後輩の書記にすべて任せると、
彼は一目散に学校の講堂を飛び出し、生徒会室にある自分の荷物を取りに行く。
生徒総会が終わったら生徒たちはもう自由に帰っていいので、
智鶴もまた一直線に自分の寮に帰るつもりだ。
「三人とも、お先にーーーっ!!」
「あ、お疲れ様です評議長。」
「帰り道は車に注意してくださいね。」
「知らない人について行っちゃだめよーー。」
廊下で先ほどの執行部員三人とすれ違い、下駄箱に一直線。
校舎を出るとそこからまた弾丸のような走りで学園都市を駆け抜け寮に向かう。
「さーーって、二日もできなかった分、思う存分やっちゃうよーー!」
……何が二日分できなかったのか?
「たっだいまーーー!!誰もいねーー!!」
学生寮に帰宅。二人部屋のもう片方はまだ帰ってきてない。
高校男子の平均をはるかに超えて整頓された部屋にカバンを放り投げ、
机の上にあるデスクトップ型パソコンの電源を入れる。
実は彼、三日ほど前にあるゲームを買った。
そのゲームはこの国での知名度はあまり高くないが、
国際的な知名度がかなり高いシミュレーションゲームである。
内容は主に、自分で歴史上の文明を選んでプレイし、
ほかの文明と競い合いながら自分の国を発展させることが目的だ。
時間はターン制で進み、じっくり考えながらプレイできるのがミソ。
三日前に千鶴がなんとなくゲームショップに寄って、
なんとなく面白そうだからという理由で購入したのだが、
プレイを始めた瞬間どハマリしてしまう。
しかし、ここ二日間は生徒総会の調整と準備で忙しく、
ロクにプレイできていなかった。
だから彼は早くプレイしたいがために超特急で帰ってきたのである。
なんともお子様みたいな…………生徒会メンバーに知られたら総スカンだ。
「んんん〜〜ん〜♪」
OP曲をハミングしながら椅子にも座らず立ちっぱなしで起動を進めるちーちゃん。
上機嫌な彼を、突如、異変が襲う。
「ん……………む、あれ?おか…しいな?」
眩暈がする。
視界がグワングワン揺らぐ。
「う……そ…?くらくら…………する?」
智鶴はたまらず自分のベッドの上にあおむけに倒れる。
額には大粒の汗が浮かび、手足の感覚が無くなっていく。
そしてとうとう視界が白くなり始めたとき
(……づる…ちづる)
「………?」
(智鶴…私の声が聞こえるかしら?)
「こ………え……?」
(選ばれし孤高の魂よ。私の元に…。)
「ま……まさか…お迎えが!?そりゃ………ないよ…まだ若いのに……」
(全てが終わったら、また戻してあげるから。私に手を貸してほしい。)
彼の意識はどこか遠くに引き摺り込まれていった。
……………
ここは、剣と魔法が支配するゲームの世界。
この世界では人間、亜人、魔物が独自
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