エルがギルド長に就任してから
2年の年月が経過した。
ロンドネルを始めとする都市国家群は
ユリス諸国同盟を結成し、相互間の結びつきをさらに強めていた。
これにより、北方に位置する帝国は小国群にうかつに手出しできず、
近年、教団の仲介により諸国同盟と帝国の間に停戦協定が結ばれた。
これにより、長年戦乱が続いてきたこの地域は一時的に平穏な状態となる。
この平和はそう簡単には破られないだろう…
諸国民はそう確信していた。
いや、そう思いこみたかった。
しかし、その平穏は
ほかならぬ、自らを平和の立役者としていた
教団によって破られることになる…
ロンドネルの城の中にある大きな会議室に、
ユリス諸国同盟の領主と、代表的な将軍達が
大勢集まっていた。
いつもにもまして緊張した空気が漂う中
ケルゼンが口を開く。
「本日は忙しい中、諸卿に集まっていただき誠に恐縮である。
さて、諸卿も聞いての通り中央教会はこのたび
大々的な連合軍を結成して、
東方の地域の親魔物国家群を倒すことを決定したらしい。」
ほかの領主たちは黙々とケルゼンの話に聞き入る。
「その目的は、かつて人類の繁栄の中心であった
アルトリアの奪還と東西交易路の確保である。」
アルトリアは約半世紀前まで巨大王国の首都であったが、
現在では魔界の中心となってしまっている。
その後ばらばらになってしまった諸国に
奪還するだけの力はなかったのである。
余談だが、アルレインの故郷もアルトリアだったりする。
もう一方の東西交易路の確保であるが、
東側一帯はほぼ親魔物国なので
その地域でしか取れない物…
香辛料や象牙などの価格が高騰している。
実はケルゼン、港湾都市レーメイアで
教会の目を盗んで密かに親魔物国との密貿易を後押ししている。
そのため、ユリス諸国同盟ではほかの地域よりも
少し安く交易品が入手できる。
決してほめられたことではないが、理念よりも
実益を重視するのが彼らしいところである。
しかし、東西交易路の確保がなされれば
経済的な利益は計り知れない。
特に経済が下火の帝国にとっては
またとないチャンスである。
「教団が言うには、人々が再び結束した今だからこそ
かつての栄光を取り戻すのだとも言っていた。」
「それについて、一つ質問があります。」
淡々と説明するケルゼンの合間を縫うように
一人のポニーテールが特徴の女性領主が挙手する。
「我々が軍を出している間、帝国が停戦協定を破棄し
攻め込んでくるかもしれません。
それについて何か対策はおありですか?」
彼女の領土は帝国と境界を接しており
過去何回も攻め込まれている。
「その疑問はもっともだ。それについて答えられる人物を
特別に呼んでいる。」
言い終わると同時に、部屋の片隅から
諸国同盟ではあまり見覚えのない人物が立ち上がる。
その人物は濃い紫髪に整った顔を持つ二十代の男性で
着ているグレーの鎧には、帝国の紋章が描かれていた。
「ごきげんようみなさん。私は帝国軍の司令官を務めます
カーターと申す者。以後見知りおきを。」
そう言ってカーターは軽く挨拶する。
「さて、我が帝国といたしましても、東西交易路の確保は
何としてでも実現させたい課題であります。
よって、我が帝国軍もかつてのことは水に流し
諸国同盟と共に戦っていこうと考えています。
いえ、むしろ力を貸してほしいくらいです。
それくらい、我々も切迫しているのですよ…」
そう説明するカーターの話に
領主たちは半信半疑であるものの、
少なくとも敵対の意思はないことは感じられた。
「では、以前から通達していた通り
この場にて最終的な参加国を決定する。
諸卿も十分領民と話し合ったであろうから
その意思に従って挙手をお願いする。」
ケルゼンが言うと、三名の領主を除く
ほぼ全員が挙手をした。
「そちらの三名は、参加しないということかな?」
「ええ、私たちは軍事力が乏しくとても軍を出せません…」
老齢の女領主が弁明する
「我が国は領主さまがご病気で、軍を動かすことができません。」
重病の領主に代わって出席した男性将校が事情を説明する。
「我が国も軍は出せませんが、兵站の支援ならできるかもしれません。」
新興国家の領主が言う。
「なるほど、事情はよくわかった。無理強いはしない。
だが、気持ち程度でいいので物資援助をしてくれると助かる。」
意地でも参加しろと言っているようにも聞こえるが、
仲間外れにならないようにするための、彼なりの配慮である。
参加国が決定したのち
連合軍を誰がまとめるかに移行した。
「ふむ、やはりここは神の加護を受けし我が教会騎士団が
総指揮をとるしかないだろうな。」
そう言って立候補したのは、この場に来ていた
教会騎
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