要塞攻略に取り掛かってから3カ月がたち、両軍がにらみ合う中
ようやく到着した十字軍海軍の船団が港湾陣地に入港する。
その数はおよそ200隻……当初予定していた数の半数にも満たない。
先日の海戦で船を多く損失したことは十字軍の誰もが知っていたが、
実際に入港してくる船たちを見ると予想以上に酷い損害だと分かる。
なにしろ生き残っているのは小型の軍艦と輸送船くらいなので、
大艦隊が停泊できるように作られた港湾陣地がスカスカに見える。
それがまた本陣将兵たちの落胆を誘った。
彼らを出迎えるために港湾陣地にまで来ていたエルとカーターの前に、
生き残りの提督、インゼルメイアがとマガリが進み出る。
「総司令官、面目ない。私達はこのありさまだ。」
申し訳なさそうに頭を垂れるインゼルメイア。
「こちらからは手も足も出なかったそうだな。」
「はい……」
カーターの言葉に泣きそうになりながら頷くマガリ。
「どうだ、奴らに勝てる気がしなくなってきたか?
それとも俺たち陸軍の期待に添えなくて悔しいか?」
「カーター、そこまでにしておけ。とにかくお前らにはまだ休みはやれん。
ついてこい……たっぷりと反省会だ。」
『は、はい。』
エルが二人を連れて行ったが、カーターはまだこの場に残って
に降ろしをしている海軍の様子を眺めている。
「さて、どうするエル。いくらお前でもさすがに厳しいか?
だがこんな所で手古摺っている暇はないはずだ。」
他人事のようにつぶやくカーターだったが、
彼とて内心多少の焦りは感じている。
カナウス要塞攻略の是非が最も重要なのは他ならぬ帝国軍であり、
今後帝国が十字軍内で影響力を持てるかどうかは、
この戦いにかかっているのだ。
帝国の代表たる将軍のカーターの責任は重大だ。
(ふん、いっそのこと俺とエルとユニースだけで殴りこめば……、
だがそれはエルが絶対に許さないだろうな。
あいつはあくまで『人の手で成し遂げた』ということにこだわっている。
『エルクハルトの手で成し遂げた』ではダメ……良く分かってるじゃないか。)
ふと、どこからともなく妙な臭いが漂ってきていることに気が付いた。
その臭いは今まで嗅いだ事のないような皆目見当がつかない、
しかし、強まったら強烈な臭気になることが確実の、
とても嫌な予感がする匂いだった。
「何だこの臭いは?どこぞの魔女の婆さんが魔女鍋を作るのに失敗したか?」
余談だが魔女の婆さんとは彼の故郷のおとぎ話に出てくる
老婆の魔女バーバ=ヤガーのことであり、
現世界の魔女たちとはあまり関係はない。
カーターが臭いの発生源を確認しに行こうとしようと思った時、
船の方から二人の将軍が涙目になりながら走ってきた。
カーターの軍団の将軍であるシモンとテアだ。
「ぐ、軍団長!大変です!どうやら輸送船に積まれていた食料が腐敗していたようです!」
息も絶え絶えにシモンが報告する。
「カーター様…くれぐれも輸送船には……近付かないで…がくっ」
「て、テア司祭!しっかり!今救護所に連れて行きますから!」
「おいおい、いくらなんでも大げさすぎるんじゃないのか?
仮にもお前らは戦いの終わったあの腐臭漂う戦場を経験してる将校だろうが。」
「でしたら軍団長直々にご覧になって下さい……。きっと後悔しますから。」
シモンはテアを抱えるとまたそそくさと走っていってしまった。
「どれ、奴らが阿鼻叫喚する物は一体………」
その後まもなく、カーターは興味本位で積み荷を見に行ったことを後悔することになる。
エルが二人の提督を連れてきたのは最近陣地内に建てたばかりの灯台だった。
一ヶ月で作り上げたため高さは25メートルとさほど高くはないが、
これくらいの高さがあれば周辺の海を一望できるようになっている。
今エルと二人の提督に加え、海戦の経験があるサエとブロイゼが席に着く。
また、エルの隣にはユニースも控えていて、ユリアもカップにお茶を入れている。
先ほどからエルはインゼルメイアから戦闘経過を事細かに聞いているところだ。
「奇襲と言う悪条件に加え、船体能力の差に風や波の影響……、
ここは海賊どもの庭。主導権は完全にあっちのものか。」
「あ、あのエル様…」
「どうしたマガリ。」
「私達が、その…何もできずに負けちゃったこと、怒らないんですか?」
「こ、こらマガリ!それは藪蛇だぞ!」
インゼルメイアが慌ててマガリの口をふさぐが
「今更お前らを責め立ててもどうにもならん。
要は今回の敗北をどう次回に生かすかが重要だ。
ただし、次やって同じ失敗したらその時は容赦しない…覚えておけ。」
『はいっ!!』
怒られはしないが、どちらかと言えば怒られた方がまだ気が楽なのかもしれない。
「うーん、やっぱり海賊た
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