「……では、本日をもってそなたをグランベルテ王国近衛騎士団の一員とする。
伝統と格式を重んじる近衛騎士の名に恥じぬよう、一層の活躍を期待しよう。」
ここはグランベルテ王国謁見の間。
先日クルトマイヤーがここで近衛騎士叙勲を受け、一悶着あった場所だ。
そして数日もおかないうちに新たに一人が近衛騎士となる。
叙勲を受ける女性騎士……モルティエは一言も発さず、
いつもと変わらずただ幸せそうに微笑みを浮かべて立っている。
この美人だがどこか得体の知れない雰囲気の彼女に
国王は困惑の色を隠せなかった。
なにしろ何を言ってもうんともすんとも答えないので…
一方で近衛騎士たちも、事前予告もなしにいきなり新任騎士が任命され、
しかもそれがクルトマイヤーと同じく下級騎士からの入隊だというので、
誰もが動揺の色を隠せなかった。
「いきなり呼び出されて何事かと思ったら……もうミリアの後任が決まったのか。」
「しかも『奴』と同じ下級から来たらしいな。国王陛下も何考えていらっしゃるのやら…」
「でもさあ、なかなかキレイな顔してるじゃん。」
が、一番驚いていたのは
「おいおい、モルティエまで来たのかよ。コネ作った覚えはないぞ。」
他ならぬ親友のクルトマイヤーその人だった。
確かにクルトマイヤーからすればモルティエは、
実力も互角で、自分に負けず劣らず功績をあげており、
おまけに(口を利かないことを除けば)礼儀作法も完璧であり、
近衛騎士になってもおかしくはない人物だと思っている。
だが、いくらなんでも突然すぎた。
(だが…モルティエがいてくれたほうがむしろ仕事がしやすいかもな。)
彼は思わぬところで味方が増えたと思うと同時に、
どこか引っかかるものを感じていた。
儀式が一通り終わって、夕食を取った後
クルトマイヤーはモルティエのもとを訪ねた。
色々と聞きたいことが山ほどあるのだが、恐らく彼女は
殆ど応えてくれないだろう。昔からそういう人だとわかってはいるのだが……
「モルティエ、いるか。」
彼女は現在、新しく与えられた宿舎に引っ越し作業をしている。
とはいっても彼女自身はクルトマイヤーを含む他の下級騎士たちと同様
私物が殆ど無く、愛用の武器とボロボロの本が数冊、
それとお気に入りの観葉植物(雛菊)くらい。
クルトマイヤーが来た時、彼女は丁度観葉植物の配置を吟味しているところだった。
「聞いたぞ。第三王女様の護衛になったんだってな、良かったじゃないか。
身辺警護と言えば出世街道だ…早速問題児になった俺からみると羨ましい限りだ。」
クルトマイヤーの口調は歓迎と皮肉が半々と言ったところ。
「ま、お前がいてくれれば俺も精神的に楽になる。
欲を言えばインザーギとボーリューもいてくれればよかったんだが、
ま…これからもよろしく頼む。」
モルティエもクルトマイヤーの言葉にコクンと頷くと、お互いに握手を交わした。
どうやら彼女も一緒に頑張ってほしいと思っているようだ。
そんな時、家の玄関の扉をたたく音が聞こえた。
誰か来客が来たようだ…まだ引越しの最中にもかかわらず。
「モルティエさーん?いるー?荷物の整理を手伝ってあげようかー?」
男性の声だ。
モルティエはこの声に聴き覚えがないので首をかしげていたが、
クルトマイヤーはこの声に聴き覚えがあった。
「この声はヴルムザー先輩か。……ん、代わりに出てほしいって?仕方ないな。」
モルティエに頼まれて玄関の戸を開けると、なかなかイケメンの近衛騎士が立っていた。
「今晩はモルティエさ……ってちょっとまった!?何でお前がいるんだクルトマイヤー!!」
「これはこれはヴルムザー先輩、このような時間に何かご用でしょうか?」
「御用も何もここはモルティエさんの宿舎だろう………君に用は無いんだよ。
ただモルティエさんが引っ越しをしてるって言うから手伝ってあげようと思ってね。
それより君こそこんな所で何をしているんだ。もしや…なにか
いかがわしいことをしようとしているのではあるまいな。だとしたら先輩として……」
「俺はモルティエとは友人ですので、近衛騎士昇格へのお祝いを言いに来ただけです。」
「ふん、まあいいさ。とにかく中へ入れてもらうよ。」
「おいモルティエ、中に入りたいって言ってるがどうする?」
モルティエはゆっくり顔を左右に振った。入ってほしくないらしい。
「お断りします……だ、そうです。」
「な、何を…!というかお前はさっきから何様だ!
上官命令だクルトマイヤー!そこをどけ!」
「……………何か。」
「……っ、い、いゃ…もう何でもない……」
ヴルムザーはクルトマイヤーに詰め寄るも、
彼の眼を直視しただけで竦み上がって何も言えなくなってしまう。
「仕方ない、きょうはもうこの
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